徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

カテゴリ: 判決

以前の記事「EPO審判部の所在地に関する質問が拡大審判部に付託されました」で審判部がハール(Haar)市において口頭審理を行うことが欧州特許条約に違反するか否かについての質問が拡大審判部に付託されたことを説明しました。

この質問に対する拡大審判部の回答を含む審決が先日7月17日に欧州特許庁によって公表されました

公表された審決によると審判部がハール(Haar)市において口頭審理を行うことは欧州特許条約に違反しないとのことです。

まだ審決の理由が公開されていないのでなんとも言えませんが、この結果はこの質問の背景にあった「現在の審判部のハール市における所在地がEPC6条(2)に違反するか否か」という論点についても違反しないと拡大審判部が判断したことを示唆します。







欧州特許庁における新規性は先行技術文献から当業者が直接的かつ明確(directly and unambiguously)に導き出される範囲に基づいて限定的に判断されます。この欧州特許庁における限定的な新規性の判断基準は"Photographic Novelty"と呼ばれることもあります。一方でドイツにおける新規性の判断基準はこの"Photographic Novelty"ほど限定的ではなく、当業者が先行技術文献からより多くのことを導き出せることを前提としています。つまりドイツの新規性の判断基準は欧州特許庁のそれよりも厳しいと言われています。今回はドイツの新規性の判断基準が"Photographic Novelty"とは異なることがよくわかるドイツ最高裁(BGH)の判決(事件名:Elektrische Steckverbindung、ケース番号:X ZB 15/93)を紹介します。


1.本願(DE 3302924)クレーム1:

[...]プラグ接触要素に接続されたコネクタと、ソケット接触要素に接続された相手側コネクタと、からなる電気コネクタ。

"Elektrische Steckverbindung, bestehend aus einem Steckverbinder mit an einer Leitung angeschlossenen Stiftkontaktelementen und einem Gegensteckverbinder mit an einer Leitung angeschlossenen Buchsenkontaktelementen [...]"


2.先行技術文献(DE 3247022)の記載:

本発明は合成樹脂製ハウジングのチェンバ内へ差込まれる電気的接触要素、例えば2重板バネ接触要素のための「かんぬき」式締付具に関する。

"Die Erfindung betrifft ein Verriegelungselement für ein in einer Kammer eines Kunststoffgehäuses steckendes,elektrisches Kontaktelement z.B. für einen Doppelflachfederkontakt."


3.論点:

本願クレーム1の発明は先行技術文献に対して新規か?すなわち当業者は先行技術文献の「電気的接触要素、例えば2重板バネ接触要素」という開示から「プラグ接触要素」および「ソケット接触要素」を導き出すことができるか?


4.ドイツ最高裁の判断:

本願クレーム1の発明は先行技術文献に対して新規でない。すなわち当業者は先行技術文献の「電気的接触要素、例えば2重板バネ接触要素」という開示から「プラグ接触要素」および「ソケット接触要素」を導き出すことができる。


5.判決文の抜粋:

「先の特許出願では、唯一の実施形態である図3および図4のの実施形態における接触要素があくまで例としてに2重板バネ接触要素(コネクタ13)であることが明示的に述べられている。」

"in der älteren Patentanmeldung sei ausdrücklich angegeben, daß die Kontaktelemente bei dem einzigen Ausführungsbeispiel nach den Figuren 3 und 4 nur beispielshalber als Doppelflachfederkontakte (Verbinder 13) ausgebildet seien"

「「例として」の言及から導き出されることは、開示内容は、その分野において既知の(交換可能な)接触要素タイプ、すなわち主に用いられるプラグ接触要素および関連するソケット接触要素も含まれる。」

"Es hat aus dieser Erwähnung 'beispielshalber' hergeleitet, damit seien dem Offenbarungsgehalt auch andere, fachnotorisch bekannte (austauschbare) Kontaktelementarten, mithin auch die vorherrschend gebräuchlichen Stiftkontaktelemente und die dazugehörigen Buchsenkontaktelemente zuzurechnen."


欧州・ドイツでは当業者が出願書面から直接的かつ一義的(英語:directly and unambiguously、ドイツ語:unmittelbar und eindeutig)に導き出せる範囲は優先権の認定および補正による新規事項追加の判断の際に重要になります。欧州特許庁はこの当業者が直接的かつ一義的に導き出せる範囲をかなり厳しく(狭く)判断することで有名ですが、ドイツではこの範囲がかなり緩やかに(広く)判断されます。今回は優先権の認定に際してこの範囲が驚くほど広く判断されたドイツ最高裁(BGH)の判決(事件名:Teilreflektierende Folie、ケース番号:X ZR 112/13)を紹介します。


本願クレーム1:

ステージ等の背景に画像を表示するための画像プロジェクタ(12)、反射面(18)および
平坦、透明そして部分的に反射するフィルム(20)の使用であって・・・
前記フィルム(20)は少なくとも3m×4mの面積を有する・・・使用。


基礎出願(L2)の内容:

図:
directly
クレームおよび明細書:
フィルムの寸法および面積に関する具体的な記載はなし。


論点:

クレーム1について優先権の主張の効果が認められるか?すなわちフィルム(20)は少なくとも3m×4mの面積を有するという特徴は基礎出願L2から直接的かつ一義的に導きだせると言えるか?


ドイツ最高裁の判断:

クレーム1について優先権の主張の効果を認める。すなわちフィルム(20)少なくとも3m×4mの面積を有するという特徴は基礎出願L2から直接的かつ一義的に導き出される。


判決文の抜粋:


寸法が記載されていないことは、出願時の書面が、3m×4mより小さい面積を含むサイズの異なるフィルムの使用を含むことを示唆している。

Das Fehlen von Maßangaben legt nahe, dass der Offenbarungsgehalt der ursprünglichen Anmeldeunterlagen die Verwendung von Folien unterschied-licher Größe umfasst und damit auch solcher, die eine kleinere Fläche als 3 m auf 4 m aufweisen.

したがって基礎出願L2は、具体的な寸法を特定せずとも、ステージの概念のみによって規定され、いずれにせよ通常のステージサイズを含む広い寸法範囲を間接的に開示する。

L2 offenbart damit mittelbar, ohne sich auf bestimmte Maßangaben festzulegen, eine breite Be-reichsangabe, die nur durch den Begriff der Bühne begrenzt wird und jedenfalls übliche Bühnengrößen umfasst.

フィルムの3m×4mという最小表面積は、当業者によって基礎出願L2から可能な実施形態として直接的かつ一義的に導き出されうる。

Eine Mindestfläche der Folie von 3 m auf 4 m kann der Fachmann der L2 unmittelbar und eindeutig als mögliche Ausführungsform der Erfindung entnehmen.


先日の「Poisonous Divisionalは解毒された?続報」でも説明しましたが2017年2月1日に判決文が公開された拡大審判部の判決G1/15によりこれまで採用されていたG2/98に基づく部分優先の判断基準が緩和されました。

以下に以前のG2/98の判断基準では部分優先が認められなかったが、G1/15の判断基準では部分優先が認められる3つの例を紹介します。


例① 一般化型

  基礎出願:鉄(Fe)からなる基版を有する積層体。
  優先権主張を伴う出願:金属からなる基版を有する積層体。

解説:
以前のG2/98の判断基準では、基礎出願に記載された「鉄」は優先権主張を伴う出願のクレームに含まれているものの「限定数の明確に定義された選択的主題」に該当せず「鉄」について部分優先が認められませんでした。このため以前は優先期間中に「鉄からなる基版を有する積層体」が公開されれば新規性が否定されていました。

しかしG1/15が示す新たな基準では主題が「限定数の明確に定義された選択的主題に該当するか否か」は部分優先を判断する際の要件ではなくなりましたので、「鉄」について部分優先が認められます。このため優先期間中に「鉄からなる基版を有する積層体」が公開されても新規性は否定されません。


例② 数値範囲型


  基礎出願:化合物Xを2~5w%含む組成物。
  優先権主張を伴う出願:化合物Xを1~6w%含む組成物。

解説:
以前のG2/98の判断基準では、基礎出願に記載された「2~5w%」は優先権主張を伴う出願のクレームに含まれているものの「限定数の明確に定義された選択的主題」に該当せず「2~5w%」について部分優先が認められませんでした。このため優先期間中に例えば「化合物Xを3w%含む組成物」が公開されれば新規性が否定されていました。

しかしG1/15が示す新たな基準では「2~5w%」について部分優先が認められます。このため優先期間中に「化合物Xを3w%含む組成物」が公開されても新規性は否定されません。


例③ 構成要件削除型

  基礎出願:光学レンズとエンボス加工されたセキュリティ部とを含む有価証券。
  優先権主張を伴う出願:光学レンズとセキュリティ部とを含む有価証券。

解説:
例①および例②のように本例でもG1/15が示す新たな基準では「エンボス加工されたセキュリティ部」について部分優先が認められます。このため優先期間中に「光学レンズとエンボス加工されたセキュリティ部とを含む有価証券」が公開されても新規性は否定されません。



以前の記事でPoisonous Divisional(毒になる分割出願)の問題は拡大審判部の新たな判決によって解消されるはずと説明しましたが、以前の記事を書いた時点では判決の理由が公開されていなかったため、確実なことは言えませんでした。

そして先日2月1日に判決(G01/15)の全文が公開されました。
判決の全文は現在EP0921183のRegisterのDecision of the Enlarged Board of Appealから入手することができます。

判決の全文に目をとおしてみましたが、部分優先の新たな判断基準を採用したことによりどうやら毒になる分割出願の問題はほとんどのケースにおいて解消されたと思います。

より具体的には、従来の部分優先の判断(G2/98)では
  ①クレームが基礎出願の主題を含むこと、そして
  ②その主題がクレームの限定数の明確に定義され選択的主題(limited number of clearly defined alternative subject matters)」であること、
の二つの要件を満たさなければ部分優先が認められないとされていましたが、今回の拡大審判部の判断では上記②の要件は部分優先を判断する上で必要がないと結論付けました。

以下に判決の理由の一部を抜粋します。

「包括的ORクレーム(generic“OR“claim)内の主題が部分優先を享受できるかの評価において、最初のステップでは基礎出願に開示された重要な主題、すなわち優先期間中に開示された先行技術との関連で重要になる主題を特定する。・・・次のステップでは当該主題が優先権を主張する出願または特許のクレームに含まれるかどうかを審査する。もし答えがYesの場合、クレームは事実上概念的に2つの部分に分割され、第1の部分が基礎出願に直接的かつ明確に開示された発明に対応し、包括的ORクレームのその他の部分でる第2の部分は優先権を享受できないが、それ自体EPC88条(3)に従い優先権を発生させる。」(判決の理由6.4)

「・・・部分優先の権利の評価は、その他の追加的要件を要しないことを示す。」(判決の理由6.7)

この判決により部分優先が格段に認められやすくなりました。出願人にとっては大変歓迎すべき判決であったと言えます。



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