徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

カテゴリ: ニュース・コラム

2019年2月の長谷川の日本での出没予報です。

 2月22日(金) 東京/クライアント訪問・弁理士会関東支部研修会講師
 2月25日(月) 大阪/クライアント訪問
 2月26日(火) 大阪/クライアント訪問
 2月27日(水) 愛知・東京/クライアント訪問
 2月28日(木) 東京/クライアント訪問

訪問・打ち合わせの日程等にご参照下さい。


〇マゾンが外国出願仲介ビジネスに参入してきたらどうなるだろうという妄想を短編小説にしてみました。突っ込みどころも多いのであくまでフィクションとしてお読みください。

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202×年大晦日 

自宅の書斎にて今年最後となる意見書および補正書を完成させる。厳しい納期だったがマゾンから指定された期間内に納品するができた。これでマゾンからの評価が下がることは何とか免れそうだ。

ふとスマートフォンを見ると一足先に帰省した妻から実家ではしゃぐ子供達の写真が送られていた。これはお義父さんもお義母さんも大変だろうな。。。

「仕事が終わったので、今からそちらに向かいます。予定通りの新幹線に乗れそうです」

そうメッセージを送ると、Uberで捕まえたタクシーに乗り込み新横浜駅に向かった。

今年ももうおしまいか。。。。新横浜駅へ向かうタクシーの中色々な思いが頭をめぐる。独立してもう2年か。。。自分が働く特許業界もすっかり変わってしまったものだ。。。。

 オンライン小売りの大手のマゾンが特許業界に参入したというニュースを聞いたのは4年前のことだ。「mazon PCT」との名のサービスの下、これまで主に国内の特許事務所を通してなされていたPCT移行業務をサポートするためのプラットフォームを提供するとのことだ。当時の私はこのニュースの重要性を全く理解していなかった。現地代理人とのやり取りに使えそうだな程度の認識しかなかった。

なんと浅はかだったのであろう。

影響が表れたのはmazon PCTがリリースされて半年後のことだった。まず当時所属していた事務所が担当していた内外業務が目に見えて減り始めた。気になってクライアントに問い合わせてみたところ今後mazon PCT経由で現地代理人とやり取りするこで今後は内外案件の依頼は無いとのことだった。茫然とした。

そこで初めて危機感を感じ、mazon PCTのサービスの詳細を調べた。血の気が引いた。

画期的だったのはオープンなプラットフォームだ。これまで取引のあった代理人であってもmazon PCTのプラットフォームに組み込めるという。なるほどこれはこれまで似たようなPCT移行のプラットフォームサービスを提供していた会社とは一線を画している。また各国の審査状況、OA対応期限、引用文献などの情報が全てクラウドで管理されリアルタイムで確認できる。極めて品質の高い機械翻訳付きの現地代理人とのコンタクトフォームも備わっている。さらに衝撃的なのはその値段だった。PCTの移行手数料は1国あたり現地代理人の費用も含めて500ドルという。しかもどの現地代理人を選んでも値段は一律だ。なんでオープンなプラットフォームでこの低価格を提供できるんだ。太刀打ちできるわけがない。

水は高きから低きへ流れる。慎重で知られる日本企業もそのコストの安さと利便性の高さには抗えなかったようだ。当時所属していた特許事務所は内外業務を失った。

次に影響を感じたのはこれまで海外の代理人から来ていた外内の依頼がmazon PCT 経由で来るようになった時だ。少なくとも外内業務はこれまで通りと思っていたのだが、ここでもマゾンの恐ろしさを知ることになる。

出願手続、審査請求、OAの転送、庁費用の納付などの事務手続き一切はmazon PCTのアルゴリズムによって自動化されるため、事務作業にかかる費用は請求できないとのことだ。唯一請求できるのは弁理士によるOA対応の費用のみ。移行費用一律500ドルという安さの秘密はここにあったのだ。内外業務を失った当時の事務所にとっては反論の余地など残されていなかった。多くの特許事務所では大量の事務員が余ってしまった。

OA対応をする弁理士に対しても風当りは強くなった。mazon PCTによって弁理士の処理速度、ミスの頻度、査定までの時間、値段、対応の良さなどのパフォーマンスが数値可され、マゾンで閲覧可能になった。弁理士はマゾンが提供する多くの商品のうちの1つとなったのだ。数値は無情だ。パフォーマンスの低い弁理士の下には仕事が来なくなってしまった。

余剰事務員および余剰弁理士を抱えた多くの事務所が廃業を迫られた。当時所属していた事務所を去りマゾンから直接仕事を請け負う形で独立したのはそのころだ。これまでの業界の常識はわずか2年の間にあっけなく崩れ去った。mazon PCTはその後パリ経由出願そして国内出願までにもサービスの幅を広め留まることを知らない。似たようなサービスを提供していた会社もあったが、〇マゾンがプラットフォームの覇者となった後はいつの間にか消えていた。

〇mazon PCTの出現によって待遇が下がった弁理士達が〇マゾンを呪った。しかしそれは間違いだと思う。対抗できるサービスを構築できなかった我々弁理士が悪いのだ。互いにライバル視するのではなく出願人を中心とした業界全体の利益を考え協力していればこうも容易く覇権を奪われることはなかったはずだ。我々はそれを怠ったのだ。呪うべきは自らの怠慢だ。〇マゾンを呪うのは間違っている。

しかも社会全体としてみるとむしろプラスなことが多い。

企業は〇mazon PCTの利用によって得られた余剰資金でさらに多くの出願をするようになり、特許業界のパイも大きくなった。ビジネスチャンスも増えた。

我々弁理士だって翼を捥がれたわけではない。

〇マゾンから評価は厳しいがフェアだ。〇マゾンから高評価を得ておけば新規クライアントの獲得のための営業活動は必要ない。今年はタイムチャージを10%を上げたにも関わらず去年以上の依頼が来るようになった。〇マゾンが事務手続きを担ってくれるようになったお蔭で私のような新参個人弁理士であっても歴史ある大手事務所と同じ土俵で戦える。

またこれまで現地代理人を介して出なければコンタクトできなかった海外クライアントと直接コンタクト取れるようになったことで、よりクライアントが求めるサービスを提供できるようになったのも事実だ。予想外だったのは〇mazon PCTのプラットフォームの枠組みに入りきらない係争関係の仕事も増えてきたことだ。

最近は一人では業務がきつくなって来たので来年は特許技術者を採用する予定だ。

この世に発明が生まれる以上、我々弁理士は形を変えれど価値を提供できるはずだ。逆風を追い風に変え高く飛んでみせる。

ようやく新横浜駅に着いた。お土産は何がよいかな?お義母さんはレーズンサンドが好きだったな。お義父さんには日本酒でよいか。

新幹線内のプチ一人忘年会用にハイボール、チーカマそして味付けホタテを買う。ご機嫌な忘年会になりそうだ。

そして新幹線に乗り込む。今年も良い年だった。来年もより良い年となりますように。


この度、日本弁理士会関東支部主催の研修で私長谷川が講師を務めさせて頂くことになりました。 研修の日程および概要は以下の通りです。  

・演題: 「2時間で学ぶ欧州特許庁における審判手続の概要」  
・日時: 2019年2月22日(金) 18:30~20:40  
・会場: 弁理士会館3階会議室 
・定員: 180名

受講者の皆様にとって有意義な情報および時間を提供できるよう努めますので、欧州特許庁における手続きにご興味のある方は是非ともご参加下さい。




欧州特許庁およびドイツ特許庁は2018年12月22日(土)~2019年1月1日(火)まで閉庁します。

ソース:
https://www.epo.org/service-support/updates/2018/20181212.html



最近日本人技術スタッフの採用活動をしていると多くの方がまずは日本の弁理士資格を取得してから次のステップとして海外での就職を検討されているんだなと感じます。また最近大手企業を退職されて弁理士として独立された方も「弁理士資格をとって海外で働くという選択」という記事で海外で活躍するための前提として日本の弁理士資格の必要性を説明されています。

実際に私もそうですが日本での実務経験を積んだ後に海外で就職された方々には日本の弁理士資格を有している方が多いので、日本の弁理士資格取得→海外就職というのは成功率の高いキャリアパスであったことは確かだと思います。

しかし私の個人的な見解では少なくとも現在のドイツでは日本人が特許技術者として就職する上で日本の弁理士資格の必要性はそれほど高くないと思います。理由は以下の通りです。


1.日本の弁理士資格を活用する場面が無い

ドイツの事務所で働く日本人に一番求められるのは日本のクライアントの対応です。そして当然ながらドイツの事務所は日本のクライアントの欧州・ドイツでの手続きを代理します。したがって日本のクライアント対応に求められるのは欧州・ドイツの手続きに関する知識です。このため日本のクライアントの対応には日本の弁理士としての知識およびノウハウはあまり必要なく、むしろ欧州・ドイツの手続きに関する知識およびノウハウが求められます。

また、一昔前のようにドイツ企業が日本に沢山出願していた時代(全盛期の2002年には1万件以上!)は、ドイツ企業向けに日本の特許実務に関する情報およびそれを伝える日本の弁理士資格保持者の需要はあったと思います。しかしドイツ企業が日本への出願を減らした今日(2017年には4000件程度)ではそういった需要も少なくなってしまいました。


2.日本の弁理士資格によって就職がしやすくなるということが無い

ドイツの事務所が日本人の技術者を採用する際に最優先で検討するのは、①募集要項の技術分野のバックグラウンドがあるか、②英語またはドイツ語でのスムーズな意思疎通が可能か、そして③実務経験があるか3つです。日本の弁理士資格の有無はこの3つの要件よりもかなり重要度が下がると思います。


3.日本の弁理士資格があってもあまり給与に反映されない

日本の弁理士資格があってもドイツではなんら代理権がないので、法的には普通の特許技術者と変わりません。また上述のようにドイツにおいて日本の弁理士資格の需要が減少したことにより、ドイツの事務所にとっても日本の弁理士資格にお金を出すインセンティブも減少しました。このためドイツの事務所が日本人技術者の給与を決定する際には現在では日本の弁理士資格はほとんど考慮されないと思います。


4.いずれにせよ一人前になるにはトレーニングが必要

日本の弁理士資格があっても無くても日本人が欧州・ドイツで特許技術者として一人前に業務がこなせるようになるには時間とトレーニングを要します。個人的な経験から日本の弁理士資格があるからといってこのトレーニングが楽になるということはありません。


5.日本の弁理士資格がなくとも活躍されている方がいる

さらに日本の弁理士資格を有せずとも日本のクライアントから高い評価を得ている欧州在住の日本人実務家の方々もいらっしゃいます。このことから日本のクライアントから評価されるためには日本の弁理士資格は必須でないと考えられます。


まとめ

海外で技術者として就職することを検討されている方は、上述の理由から日本の弁理士資格はマイナスにはならないけど大してプラスにもならないもの程度に考えておいた方が良いと思います。

一方で日本の弁理士試験は近年難化しているようなので、日本の弁理士資格取得にはそれなりの時間とエネルギーの投資が必要です。

このため海外で働くことを目標されていてまだ日本の弁理士資格をお持ちでない方にとっては、日本の弁理士資格の取得に時間とエネルギーを費やすよりも、その分早期に海外就職し、語学および現地でのトレーイングに時間とエネルギーを費やした方が投資効率の観点から好ましいかと思います。

とういう訳で毎度毎度強引ですが、日本弁理士資格を取ったら海外で働いてみようと現在お考えの方々、直ぐにでもドイツで働いてみませんか?

ドイツで働くのもアリかなと思われた方は以下の記事もご参照下さい。




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