徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

カテゴリ: 特許翻訳

ドイツ語には英語のアルファベットには存在しない「ä, ö, ü, ß」といった特殊文字が存在します。このためドイツ語のテキスト作成の頻度が多い人は「コントロールパネル」から「ドイツ語」を言語として追加し、ドイツ語入力をする際には、言語をドイツ語に変更してテキストを作成することが一般的かと思います。

しかしコントロールパネルから「ドイツ語」を追加した場合、通常の設定ではドイツ語入力をする際のキーボードレイアウトはドイツ語のキーボードレイアウトとなります。このドイツ語のキーボードレイアウトは通常の日本語のキーボードレイアウトと異なり「Z」と「Y」の位置が逆だったり、記号の位置が違ったり、「ä, ö, ü, ß」のような特殊文字の位置が分かりにくかったりと、日本のユーザにとってはかなり使い勝手が悪いです。

そこでお勧めするのがドイツ語入力の際のキーボードレイアウトを「米国 - インターナショナル」とすることです。

キーボードレイアウトが「米国 - インターナショナル」であればアルファベットの配置および記号の配置が日本語のキーボードレイアウトと同じなのでドイツ語テキスト作成の入力もストレスなく行うことができます。

また「ä, ö, ü, ß」などの特殊文字は、

 Alt+q = ä
 Alt+p = ö
 Alt+y = ü
 Alt+s = ß

といったAltキーとの組合せで出力することができます。

つまりドイツ語入力の際のキーボードレイアウトを「米国 - インターナショナル」とすることで使い慣れた日本語のキーボードレイアウトで効率よくドイツ語のテキストが作成できます。

ドイツ語入力の際のキーボードレイアウトを「米国 - インターナショナル」にするには「コントロールパネル」の「言語」のオプションをクリックし、
DE Tastatur 1

入力方式の追加をクリックして、

DE Tastatur2

そして「米国 - インターナショナル」のキーボードレイアウトを選択することでできます。

DE Tastatur3

日本語の明細書では「●●側」という表現はよく用いられます。この「●●側」という表現は通常「●● side」と訳されますが、適切でない場合が多々あります。

「Xの前側に配置されたY」という表現を例に考えてみましょう。
日本語における「Xの前側に配置されたY」という表現は、以下の二つの構成を表すものとして用いられます。

1.YがXから離間せず、Xの前部位に配置される構成(構成①)
Bild2

2.YがXから離間してXの前に配置される構成(構成②)
front2


しかし「Xの前側に配置されたY」を「Y arranged at the front side of X」と訳してしまうとどう解釈されるでしょう。
欧米人は「front side」を通常「前の部分」または「正面」と解するので「Y arranged at the front side of X」は以下の構成を意味することになります。

1.YがXから離間せず、Xの前部位に配置される構成(構成①と同じ)
Bild2


2.YがXから離間せず、Xの正面に配置される構成(構成③)
front3

すなわち「Y arranged at the front side of X」には上記構成②が含まれなくなります。また構成①を表現したい場合であっても構成③と混同される恐れがあります。

このため「Xの前側に配置されたY」が構成①を表現したい場合は「Y arranged at the front part of X」と、構成②を表現したい場合は「Y arranged in front of X」と訳した方が誤解が少なくなります。

「後側」、「上側」、「下側」、「●●部材側」といった表現にも上記と同様の問題が生じるので注意が必要です。

特に「中央側」を「center side」などと訳してしまうと欧州の審査官が「中央なのか、側(わき)なのか、はっきりしろ!」とブチ切れることがあるので別の表現を用いたほうが無難です。


日本語の明細書では○○部という表現はよく用いられます。この「○○部」の英訳として日本ではよく「○○portion」という表現が用いられますが、この表現が適切でない場合がよくあります。

例えば以下の図1に示された構造を説明するために日本語の明細書の壁部という表現があるとします。この場合、壁部は青色で示された壁を構成する部材全体を指していると解釈してもしっくりきます。ですので例えば「壁部は底板に溶接された一枚の金属板である」と記載しても日本語的にはなんら違和感はありません。

wallJP
図1

しかし壁部を「wall portion」と訳してしまうとどう理解されるでしょう。

Merriam-Webstarによるとportionとは「a part of a larger amount, area, etc」です。したがって「wall portion」という文言は以下の図2に示すように壁を構成する部材の一部(青色で示された領域)を意味すると解釈するのが自然になります。

wallEP
図2

したがって「a wall portion is a single metal plate welded to the bottom plate(壁部は底板に溶接された一枚の金属板であり)」なんていう表現は、欧米の審査官および代理人によっては技術的に違和感がアリアリで「壁の一部が溶接された一枚の金属板???溶接された金属板以外に壁を構成するものがあるってこと???」と不要な混乱を招くことがあります。

このように「部」がある構成または部材の全体を指している場合は「portion」という訳は適切ではありません。

本例では壁部は「wall」または「wall member」と訳すのがより適切かと思います。




「制御する」という動詞は、英訳において多くの場合「control」と訳されます。
では独訳ではどうでしょうか?つい英語の「control」に倣って「kontrollieren」と訳してしまいがちですが、「kontrollieren」は、ドイツ語では「管理する」または「支配する」という意味を有し、「制御する」とはニュアンスが異なるので適切ではありません。

独訳においては、「制御する」は正しくは「steuern」または「regeln」と訳されます。ここで注意すべきは制御工学分野におけるドイツ語においては、「steuern」と「regeln」とは、明確に使い分けられているという点です。
以下、「steuern」および「regeln」の制御工学における意味について説明します。


・Steuern
ドイツの国家規格であるDIN規格によると、「steuern」とは、あるシステムにおいて1または複数の入力が、システム特有の法則に従って出力に影響を与える工程を意味します。また「steuern」で特徴的なのは、そのオープンまたはクローズドの作用経路であり、この作用経路では入力値によって影響された出力値が、再び同じ入力値を介して自身に作用することはありません。

わかりずらいので例を用いて説明します。

「steuern」の例として最も簡単なのがスイッチによる照明のオン/オフの切替です。このシステムではスイッチがオンにされるという入力によって照明が点灯されるという出力が達成されます。このとき当該システムでは照明の状態(出力)とスイッチの状態(入力)とを比較するということは行いません。この場合、照明の状態は「steuern」されています。


・Regeln
DIN規格によると、「regeln」は、あるシステムにおいてある値を継続的に計測し、計測値を規定値と比較し、計測値が規定値からずれたときに、計測値を修正する工程を意味します。

「regeln」の例として挙げられるのがエアコンです。エアコンではまず希望の温度(規定値)を設定します。そしてエアコンは実際温度(測定値)を測定し、設定温度と比較し、実際温度が設定温度からずれているときは、温風または冷風を供給します。このシステムでは測定値と規定値とが継続的に比較されます。この場合、温度は「regeln」されています。

英語やドイツ語の文献では、X/Yというように単語と単語 との間にスラッシュ記号(/)を挿入した表現がよく見られます。この場合、単語と単語との挿入されたスラッシュ記号(/)は、orと解釈すべきなのでしょ うか、andと解釈すべきなのでしょうか。ここでスラッシュ記号(/)は、ドイツ語と英語とで若干意味が異なるので注意が必要です。


1.英語での意味

Oxford Dictionariesによると、スラッシュ記号(/)はalternative(二者択一から選択すべきもの)を表現、すなわち「or」を意味するようです。このため英語ではX/Yは、いずれか一方が成立すると、他方が成立しない関係であるXorYを意味し、両者が成立するXandYは含みません。

注意:しかしながら実際は英語でも、スラッシュ記号(/)がorだけでなくandのニュアンスを明らかに含む場面もよく見かけます。英語においてスラッシュ記号(/)が実際にどのような意味で使われているかは、文献全体の内容に照らし合わせて判断する必要があります。


2.ドイツ語での意味

Die amtliche Regelung der deutschen Rechtschreibung(公的ドイツ語スペル規則)第106条によると、スラッシュ記号(/)は「or」の意味も含み、かつ「and」の意味を含むことが 明示されています。このためドイツ語ではX/Yは、XorYおよびXandYの両方を意味します。

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