徒然なるままに欧州・ドイツ特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州・ドイツ特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

カテゴリ: 異議申立・情報提供

欧州特許庁での異議(Opposition)は特許権者にも異議申立人にも費用および手間の面で多大な負担になります。

この多大な負担を避けるため、異議申立後に特許権者から異議申立人に異議の取下げを条件に和解を提案することがあります。

特に異議申立人が特許権者の競合他社でない場合などは特許が維持されたほうが両当事者にとって好ましいことが多いので、積極的に和解がなされ異議が取り下げられます。

しかしこの特許権者からの和解の提案および異議申立人による異議取下げはタイミングを誤ると異議部の職権で異議が続行されてしまい無意味になることがあります。このため異議手続中のどのタイミングで特許権者が和解を提案するかは重要な問題です。

以下に欧州特許庁における異議で特許権者から異議申立人に和解を提案するのに好ましい3つのタイミングを紹介します。


1.異議申立の直後
 
異議が申し立てられた後であってかつ特許権者が応答をする前のタイミングで和解が成立し、異議が取り下げられた場合は、異議部はほとんどの場合ケースに未着手なので異議が職権で続行されることはまずありません(T197/88)。

またこのタイミングですと特許権者の代理人費用もほとんど発生していません。

したがってこのタイミングで和解を成立させると、最も低リスクかつ低コストで特許を維持させることが出来ます。


2.異議部の予備的見解の受領直後

異議申立に対して特許権者が応答した後は通常異議部から予備的見解を含む口頭審理の召喚状が送付されます。この異議部の予備的見解の受領後であって口頭審理前も特許権者が和解を持ち掛けるタイミングとして好まれます。

特に異議部の予備的見解が特許権者寄りの場合、すなわち特許が維持されることを示唆する予備的見解の場合は、異議申立人が最終的に負ける可能性が高いため異議申立人にとっても和解をするインセンティブが高まります。

このタイミングで和解を成立させ異議が取り下げられると、口頭審理に掛かるはずだった費用を抑えつつ特許を維持することができます。

一方でこのタイミングで異議が取り下げられても異議部は職権で異議を続行することがあります(T560/90)。特に異議部の予備的見解が異議申立人寄りの場合、すなわち特許が取り消されることを示唆する予備的見解の場合は、仮に異議が取り下げられても、異議が職権で続行されてしまい最終的い特許が取り消されてしまうというリスクが高いです。

したがって異議部の予備的見解が異議申立人寄りの場合は、このタイミングで特許権者から和解を提案することは好ましくありません。


3.特許維持決定の直後

異議部が特許の維持決定を下したとしても異議申立人にはまだ不服申立手段である審判(Appeal)が残されています。

審判が請求されると統計上6割程度の確率で第一審(異議部)の判断が覆るので(審判部のAnnual Report参照)、この時点では依然として特許が取り消されるリスクが残っています。また審判は3年~5年と長期に及ぶのでさらなる費用および手間の負担が強いられます。

このため特許維持決定の直後であってかつ審判請求期限前も特許権者が和解を持ち掛けるタイミングとして好まれます。

このタイミングで和解の交渉をする場合、特許権者にとっては異議部による特許維持決定という交渉を有利にする材料がありますので、ライセンス料などの和解条件で交渉が特許権者にとって有利に進むことがあります。


まとめ

上記をまとめますと、欧州特許庁における異議で特許権者から異議申立人に和解を提案するのに好ましいタイミングは、1)異議申立の直後、2)特許権者寄りの予備的見解が得られた直後、そして3)特許維持決定の直後になります。

いずれのタイミングでも異議中の和解交渉は時間との闘いになります。異議手続中の和解交渉には特許権者の素早い意思決定とスピーディな現地代理人との連携が求められます。


欧州特許庁でもドイツ特許庁でも出願の公開後は第三者が情報提供により出願に係る発明の特許性に関して意見を述べることができます。しかし情報提供の内容を参酌するか否かは審査官の裁量によるので、情報提供したももの審査官に無視されしまい、結局はそのまま特許になってしまったということもあります。

そこで今回は情報提供の内容を審査官に参酌してもらう可能性を上げるためにできることを紹介したいと思います。


1.なるべく審査の序盤に情報提供をする

審査も終盤になると審査官の心証形成も終了しています。審査の終盤で情報提供がされても今更審査の方針を変えたくないというのが審査官の本音になると思います。したがって情報提供の内容を参酌してもらうためにはまだ審査官の心証形成がなされていない審査の序盤に情報提供をすることが好ましいです。

一方で公開直後のようにまだ審査が開始しておらず、出願人による権利化の方針が固まっていない時点で情報提供をしてしまっては、情報提供が無駄になってしまったり、出願人を不必要に刺激してしまう恐れがあるので好ましくありません。

このため情報提供の時期としては、第1OA(欧州特許庁では欧州調査報告)に対する出願人の対応後であって第2OAの発行前のできるだけ早い時期をお勧めしています。


2.新たな文献で新規性を攻撃する

私の経験上、情報提供で参酌される可能性が最も高いのはこれまでの審査過程で引用されてこなかった新たな文献で新規性を攻撃する場合です。したがって情報提供をする際には新規性を否定しうる新たな文献を準備することをお勧めしています。

一方で、記載不備や既に引用された文献で新規性または進歩性を指摘する情報提供は参酌されないことが多いです。これは、このような情報提供の内容を認めてしまうとこれまでの自らの審査に不備があったことを認めてしまうことになるのでできれば避けたいという審査官の心情が原因なのではないかと推測します。


3.審査官の負担を減らす

審査官も忙しいので情報提供の内容を参酌するための労力が大きければ大きいほど、情報提供の内容を無視したくなくなると思います。このため審査官が情報提供を参酌するための負担をできるだけ軽減するようにしています。

例えば、新規性を攻撃する場合は、文章だけでなく一目で新規性がないことがわかるような図や表を添付します。これにより審査官は長々とした説明を読まずとも即座にクレームされた発明に新規性がないことを理解することができ、審査官が情報提供の内容を把握するための負担を減らすことができます。

また上述した図や表とは別に新規性がないことを詳細に説明した文章も添付します。こうすることで審査官は当該文章を単にコピペするだけで情報提供の内容を参酌したOAを作成することができ、審査官のOA作成時の負担を減らすことができます。


4.まとめ

上述した3つの点を意識すれば審査官に情報提供の内容を参酌してもらえる可能性を上げられると思います。特に効果的と私が個人的に思うのは(2)の「新たな文献で新規性を攻撃する」です。強力な証拠に基づく情報提供であれば審査官も無視しにくくなります。一方で脆弱な証拠しかない場合は、情報提供自体の是非を再検討したほうがよいです。見込みがない情報提供をしてしまうと、特許成立の阻害というメリットは一切得られず、出願人に第三者が当該出願に興味を持っていることを知らせてしまうというデメリットだけを被る恐れがあるからです。


日本では特許庁が特許無効手続を管轄しますが、世界には裁判所が特許無効手続を管轄する国があります。欧州では以下の国で裁判所が特許無効手続を管轄します。

・アンドラ
・アルバニア
・ドイツ
・スペイン
・フィンランド
・フランス
・アイスランド
・イタリア
・ルクセンブルグ
・ラトビア
・モナコ
・オランダ
・ノルウェー
・ルーマニア
・セルビア
・スウェーデン

参考資料:


欧州において特許異議申立制度を採用する国のリストです。

・アルバニア
・オーストリア
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
・ブルガリア
・スイス
・キプロス
・ドイツ
・デンマーク
・スペイン
・フィンランド
・クロアチア
・アイスランド
・イタリア
・ラトビア
・ノルウェー
・ポーランド
・ポルトガル
・ルーマニア
・スウェーデン

参考資料:


欧州特許庁での異議申立の口頭審理は第三者に公開されています(EPC116条(3))。このため何人であっても欧州特許庁での異議申立の口頭審理を見学することができます(ただしオンライン包袋閲覧の対象でない個人情報または営業秘密に関わるやり取りがなされる場合は、その間第三者は退室を命じられますが(T1401/05))。

ドイツにお立ち寄りの際には勉強がてらに異議申立の口頭審理を見学してみてはいかがでしょうか。

また欧州特許庁は、Oral proceedings calendarで三ヶ月先までの口頭審理のスケジュールを公開していますので、見学する場合は事前にどの口頭審理が面白そうかチェックすることをお勧めします。



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