徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

カテゴリ: 出願

明細書における発明の課題の記載には発明者の発明に対する情熱が反映されやすいので、壮大になりがちです。

しかし欧州での権利化を想定している場合には明細書における発明の課題の記載は謙虚したほうがよいです。

欧州では独立クレームが全ての必須の特徴(Essential Features)を含むことがサポート要件(EPC84条)として求められます(GL F-IV, 4.5.1)。そして必須の特徴(Essential Features)とは明細書における発明の課題の解決に必要な記載と定義されています(GL F-IV, 4.5.2)。

このため、明細書における発明の課題が壮大で、明細書の実施形態また実施例からその課題たの解決には独立クレームの特徴だけではなく、従属クレームなどに記載された他の特徴も必要であることが明らかな場合は、独立クレームは全ての必須の特徴を有しないのでサポート要件違反と判断されます。この場合、当該他の特徴を独立クレームに追加しなければ、サポート要件違反を解消することは難しいです。

一方で、明細書における発明の課題が独立クレームの特徴のみによって解決されるような謙虚なものであるときにはサポート要件違反と指摘されることはありません。

このため欧州での権利化を想定している場合には、明細書における発明の課題としては謙虚に独立クレームの特徴によってのみ解決されることができる課題を記載することをお勧めします。


日本特許庁作成のドイツ特許規則13条(1)の和訳では出願書面の一つである要約書のボリュームについて以下のように記載しています。
第13条 要約
(1) 特許法第36条に従う要約は,1,500語以下とすることが好ましい。
「1500語」というと米国や欧州と比較してかなり多いです。したがってドイツ向けの出願では要約書のボリュームを多くできると思われる方も居るかもしれません。

しかしこの「1500語」という和訳は誤りです。

以下の実際のドイツ語の原文によるドイツ特許規則13条(1)を見てみますと「1500 Wörter (1500語)」では無く、「1500 Zeichen(1500文字)」と記載されていることが分かります。
§ 13 Zusammenfassung
(1) Die Zusammenfassung nach § 36 des Patentgesetzes soll aus nicht mehr als 1500 Zeichen bestehen.
したがってドイツ特許規則13条(1)の正しい和訳は

「特許法第36条に従う要約は,1,500文字以下とすることが好ましい。」

になります。

なおドイツでは要約書のボリュームを単語数ではなく文字数で制限しているのはドイツ語の言語学的性格に起因します。

ドイツ語では複数の単語を1つの単語に纏めることができるため1つの単語の文字数が多くなる傾向があります。

このため要約書の単語数のみを制限したとしても、実際のボリュームの制限力は限定的です。このため単語数ではなく文字数の制限によって要約書のボリュームが制限されています。



EP-DE_Comp




欧州では1つのカテゴリ(物、方法および使用)に2以上の独立クレームを含めることは原則禁止されています。この1カテゴリー1独立クレームの原則を規定するのが以下のEPC規則43条(2)です。

EPC規則 43条(2)          
第82条を損なうことなく、欧州特許出願は、同一カテゴリー(製品、方法、装置又は用途)に属する2以上の独立クレームを含むことができるが、出願の主題が次の項目の1に係わっている場合に限る。
(a) 相互に関連する複数の製品
(b) 製品又は装置の異なる用途
(c) 特定の問題についての代替的解決法。ただし、これらの代替的解決法を単一のクレームに包含させることが適切でない場合に限る。

このようにEPC規則43条(2)は上記(a)、(b)および(c)の場合、例外的に1つのカテゴリーに2以上の独立クレームを含めることが許されることを規定しています。そして欧州特許庁のガイドラインが上記(a)、(b)および(c)の要件を満たす具体例を開示しています(GL F‑IV, 3.2)。

欧州特許庁のガイドラインに開示された具体例は以下の通りです。

 ・EPC規則43条(2)(a)型
 ‐ プラグとソケット
 ‐ 受信機と送信機
 ‐ 化合物の中間体と最終化合物
 ‐ 遺伝子と遺伝子構築物とホストとタンパク質と薬剤
 
・EPC規則43条(2)(b)型
  ‐ 化合物の複数の用途

・EPC規則43条(2)(c)型
 ‐ 同一グループに属する複数の化合物
 ‐ そのような化合物を製造する複数の方法

・その他
 ‐ 回路とその回路を有する装置
 ‐ データ処理方法、そのデータ処理方法を行う手段を有する装置、そのデータ処理方法のプログラムが格納された情報媒体




PCT出願の和文明細書を作成する際にはWIPO指定の共通出願様式により通常段落番号を付します。しかしPCT出願の各国移行の際に必要になる翻訳文(英文)ではこの段落番号を付す必要がありません。このため各国移行時には段落番号が付されていない翻訳文が提出されることがあります。

しかし以下の2つの理由からPCT出願の英文明細書にも段落番号を付すことをお勧めします。


1.記載箇所を特定しやすい

英文明細書にも段落番号が付されていると、和文明細書の記載箇所と英文明細書の記載箇所とを対応させることが容易です。

このため例えば現地代理人にクレーム補正の根拠を説明しなければならない場合、英文明細書にも段落番号が付されていると、和文明細書において補正の根拠となる記載箇所に対応する英文明細書の記載箇所をすぐに特定することができます。また現地代理人に対しては「クレーム補正の根拠は明細書段落[00XX]である」とだけ説明すれば十分な場合がほとんどになるので指示書の作成も楽です。

一方で英文明細書に段落番号が付されていない場合は、和文明細書において補正の根拠となる記載箇所に対応する英文明細書の記載箇所を特定するのに手間がかかります。さらに現地代理人に対する補正の根拠を説明では「クレーム補正の根拠は明細書XXページ、XX~XX行である」とページだけでなく行も特定しなければならないので指示書作成の労力も増えます。
 

2.各国移行時に事故が起こりにくい

ほとんどの現地代理人は和文PCT出願書面を読むことはできません。このため日本から国内移行の指示と共に送られてきた英文書面が本当に和文PCT出願書面と対応しているかを確かめる術がありません。

したがって仮に誤って別案件の英文書面を送ってしまった場合には、そのままその誤った英文書面が国内移行時に提出されてしまい気づいた時には時すでに遅しということがあります。

一方で英文明細書に段落番号が付されている場合は、現地代理人は少なくとも和文明細書の段落番号と英文書面の段落番号とが一致しているかをチェックすることができます。そしてその段落番号が一致していない場合は和文PCT出願書面と送られてきた英文書面とが対応していない可能性に気づくことが出来ます。

したがって仮に誤って別案件の英文書面を送ってしまった場合であっても移行手続前にその誤りを修正できるチャンスが増えます。


まとめ

上述のように英文明細書にも段落番号を付すことで中間対応時の手間だけでなく事故のリスクも減らせます。したがってPCT出願書面の英訳を作成する際には英文明細書に段落番号を付すことをお勧めします。


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