徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

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日本特許法の36条6項2号、3号に対応する欧州特許条約(EPC)の84条ではクレームの明確性について以下のように定めています。

「EPC84条 クレーム
クレームには、保護が求められている事項を明示する。クレームは、明確かつ簡潔に記載し、明細書により裏付けがされているものとする。」

したがって例えば欧州特許出願のクレームに不明確な文言が含まれているとEPC84条の下出願が拒絶されます。

しかしドイツ特許法にはEPC84条に対応する条文がありません。またドイツ連邦特許裁判所は最近の判決(15 W (pat) 9/13)でクレームの明確性は拒絶理由ではないとする立場をとっています。

このようにドイツでは仮にクレームに不明確な文言があったとしても明確性を理由として拒絶されないため、欧州特許庁よりも記載要件が緩いといえます。


欧州特許出願のOA対応でクレーム1は補正せず、新たな従属クレームを追加する補正の指示を受けることがあります。これは補正無しのクレーム1の特許性が認められなかった際には新たに追加した従属クレームの審査してもらうことを期待した指示だと思われます。しかしながらほとんどの場合その期待は裏切られることになります。

そもそも欧州特許庁のガイドラインは出願時(調査段階前)にある従属クレームの特許性を審査することを明確に審査官に義務付けていますが(GL B-III, 3.7)、出願後に例えば拡張欧州調査報告(EESR)に対する応答の際に追加された新たな従属クレームの特許性を審査する義務はガイドラインに明示されていません。

したがってほとんどの場合、審査官はクレーム1の特許性が認められないと判断した際には、新たに追加された従属クレームの審査することなく新規のOAを発行します。

このため欧州特許庁におけるOA対応で新たな従属クレームを追加する補正はあまり効果的ではありません。

どうしても「クレーム1は補正したくない、けれどもクレーム1の特許性が認められなかったときは追加の特徴も審査してほしい」という場合は、補正無しのクレームを主請求(Main Request)とし、補正いより特徴をクレーム1に追加したものを補請求(Auxiliary Request)とすることをお勧めします。

補請求の審査の義務はガイドラインに明示されていますので(GL E-X, 2.9)、補正無しの主請求の特許性が認められなかった際には、補正により特徴が追加された補請求が確実に審査されることになります。





ドイツ特許庁が単一性を指摘してくることはどちらかと言うと稀です。ドイツ特許庁の審査基準では単一性がないことが明らかな場合であっても課題の共通性がある場合などは単一性の指摘を避けるべき旨が規定されています(Richtlinien für die Prüfung von Patentanmeldungen 1.7)。このため普段の実務でドイツ特許庁からの単一性の指摘に触れることはあまりありません。

しかし一旦ドイツ特許庁から単一性を指摘するOAが発行された場合は注意が必要です。なぜなら単一性の指摘を解消する手段が限られているからです。

より具体的にはドイツ特許庁からのOAで単一性が指摘された場合、それを解消する手段は原則以下の2つしかありません(Richtlinien für die Prüfung von Patentanmeldungen 2.3.3.4)。

 1.単一性がない部分を放棄する
 2.単一性がない部分を分離(Ausscheidung)する

ここで「分離(Ausscheidung)」とは単一性を指摘するOAで指定された期間内に義務的に行う分割を意味し、出願係属時にいつでも行うことができる自発的分割(Teilung)とは別の名称が用いられています。

つまり欧州特許庁のように補正によって単一性を確保したり、意見書によって単一性があることを主張したりすることで単一性の指摘を解消することはできません(過去の記事「部分ESRの対応とその後のシナリオ」を参照)。

さらに注意すべきはOAで指定された期間内にその単一性がない部分を分離(Ausscheidung)しなかった場合、その部分を放棄したとみなされ以後の手続きでその部分を復活させることができません。自発的分割(Teilung)の対象とすることもできません。つまり分離(Ausscheidung)しなかった部分の権利化は不可能となります。

従って、単一性が無い部分の権利化を希望する可能性がある場合は、OAで指定された期間内にその部分を分離(Ausscheidung)しておくことをお勧めします。


外国中間の対応は日本代理人と現地代理人とで2重の費用が発生するため高額になりがちです。外国中間費用を抑えるための手段は色々ありますが最も効率的なのが余計な拒絶理由通知(OA)の発生を抑えることだと思います。そこで今回は私が余計なOAの発生を抑えるために実行している4つの手段を紹介します。


1.    指示内容を検討する

日本からの指示書に従って意見書および補正書を作成する場合であっても、単に指示書通りに意見書および補正書を作成するのではなく、欧州またはドイツの実務の観点から指示内容に問題が無いか検討します。そして指示方針に問題がある場合は必ずクライアントにフィードバックをするようにしています。問題がある指示方針のまま対応をしたのでは余計なOAが発生するリスクが高いからです。


2.    複数の対応案を検討する

私自身が対応案を検討する際には、まず出来る限り広い権利範囲を確保するためのチャレンジングな対応を検討します。しかし出願によっては狭い権利範囲でも良いので早期に権利化したいという要望もあります。このように早期権利化を優先したい場合は、チャレンジングな対応をしたのでは余計なOAが発生するリスクが高いので好ましいとは言えません。

したがって対応案を作成する際は、チャレンジングのな対応案Aの他に早期権利化を意識した対応案Bも出来る限り提案するようにしています。


3.    OAに不明点がある場合は審査官に電話する

OAの内容に不明点がある場合、その不明点を放置したまま対応したのではまた新たなOAが発行されるリスクが高いです。そこでOAの内容に不明点がある場合は、審査官に電話をかけOAの不明点を解消した上で対応案を検討しています。運が良ければ電話でOAの不明点について議論している内に審査官から特許可能な補正案の示唆も得られることがあります。


4.    状況に応じて明細書を補正する

欧州およびドイツでは審査官がクレームが許可可能であると判断した場合、新たなOAを発行し明細書をクレームに適合させたり、明細書中に引用文献を記載する補正を求めてきます。しかし事前に明細書をクレームに適合させ、明細書中に引用文献を記載しておけばこの明細書の補正のみを求めるOAの発生を防止することができます。したがって審査官が次のOAでクレームを許可可能と判断する確率が高いと判断した際には自発的に明細書も補正し、明細書の補正のみを要求するOAが発生することを防止しています。


外国特許庁によるOffice Action(OA)への対応では、出願人が対応案を考えるか、日本代理人が対応案を考えるかまたは現地代理人が対応案を考えるか選択肢が多いため検討フローが複雑になりがちです。また日本と現地で重複して検討がなされたり、せっかく時間をかけて作成した対応案が現地代理人からダメ出しされたりと無駄な作業が発生してしまうリスクが高いです。

そこで今回は私が個人的にシンプルかつ無駄の発生リスクが低いと思う外国中間の検討フローを紹介します。以下のようなフローチャートになります。
OA_Flow

解説:

上記フローチャートでは保護すべき実施形態があるか無いか、OAにおける審査官の提案に同意するか否かで以下の3つの対応に分かれます。

1.保護すべき実施形態が特に無いケース(P1)

実施する予定がない発明に関する出願の場合など保護すべき実施形態が特に無い場合には、現地代理人にいきなりドラフト作成を依頼してしまうのが効率的と思います。現地の実務に熟知した現地代理人にドラフト作成を依頼することで効率的な権利化が期待できます。

2.保護すべき実施形態があるケース(P2)

保護すべきまたは優先すべき実施形態がある場合はその情報と併せて現地代理人にコメント作成を指示することが効率的と思います。保護すべき実施形態に関する情報を伝えることで現地代理人が無駄な対応案を検討・作成するリスクを低減することができます。また本ケースではそれでも現地代理人の対応案が望ましい実施形態から外れてしまうことがあります。このため全てが無駄になる恐れのあるドラフトではなく、コメント作成を依頼する方が無駄の発生リスクを抑えられます。

代替的に本ケースでは、保護すべき実施形態に関して一番詳しい出願人が対応案を考えても良いと思います。

3.審査官の許可クレームの示唆に同意するケース(P3)

OAに審査官による許可可能なクレームの示唆があり、その示唆に従う場合は、現地代理人に審査官の示唆に従った補正書および意見書の作成・提出の指示を出すのが効率的です。このケースでは次のステップで許可が得られることがほぼ確実ですので、ドラフトをチェックする必要性も低いです。




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