徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

カテゴリ: ドイツ特許実務

背景:

ドイツ連邦特許裁判所(Bundespatentgericht)は日本の無効審判に対応する無効訴訟(Nichtigkeitsklage)を管轄する裁判所です。この無効訴訟にはドイツ特許庁の審査を経たドイツ国内特許に対する無効訴訟と、欧州特許庁の審査を経た欧州特許のドイツ部分に対する無効訴訟とがあります。このたびドイツ連邦特許裁判所におけるドイツ国内特許の無効率と、欧州特許のドイツ部分の無効率とに差があるのではないかと思い調べてみました。


調査方法:

ドイツ連邦特許裁判所のデータベースに公開されている2018年の無効訴訟の判決73件を、対象がドイツ国内特許であるもの(6件)と、欧州特許のドイツ部分であるもの(67件)に分けそれぞれ特許維持判決(valid)、無効判決(invalid)そして一部無効判決(partly invalid)の比率を調べました。


結果:

1.ドイツ国内特許に対する無効訴訟の判決の比率
Nullity DE
2.欧州特許のドイツ部分に対する無効訴訟の判決の比率
Nullity EP

考察:

ドイツ国内特許に対する無効訴訟の判決のサンプル数が6件と少なかったため正確な比較はできませんが、上記結果はドイツにおいてはドイツ国内特許の安定性(特許維持判決の比率=50%)のほうが、欧州特許のドイツ部分の安定性(特許維持判決の比率=13%)よりも遥かに高いことは示唆します。





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参考サイト


日本特許法の36条6項2号、3号に対応する欧州特許条約(EPC)の84条ではクレームの明確性について以下のように定めています。

「EPC84条 クレーム
クレームには、保護が求められている事項を明示する。クレームは、明確かつ簡潔に記載し、明細書により裏付けがされているものとする。」

したがって例えば欧州特許出願のクレームに不明確な文言が含まれているとEPC84条の下出願が拒絶されます。

しかしドイツ特許法にはEPC84条に対応する条文がありません。またドイツ連邦特許裁判所は最近の判決(15 W (pat) 9/13)でクレームの明確性は拒絶理由ではないとする立場をとっています。

このようにドイツでは仮にクレームに不明確な文言があったとしても明確性を理由として拒絶されないため、欧州特許庁よりも記載要件が緩いといえます。


ドイツではプロダクトバイプロセスクレーム(以下PbPクレーム)の解釈に審査時も侵害判断時も物同一説を採用します。今回はこの物同一説の考えがよく表れた侵害事件におけるドイツ最高裁(BGH)の判決(事件名:Kochgefäß、ケース番号:X ZR 81/13)を紹介します。


1. クレーム1

 M1: 被覆底部(18)を有する調理鍋(10)であって、
 M2: その被覆底部の保護被覆(22)の周壁(26)に、隆起部(28、30)および/あるいは陥没部(32、34)が形成され、
 M3: 前記隆起部(28、30)および/あるいは前記陥没部(32、34)は、前記被覆底部(18)を製造するために使用される成形型に対応した凹陥部および/あるいは突出部を設けることで得られる、調理鍋(10)。
PbP
2. 明細書:

被覆底部を製造するために使用される成形型に対応した凹陥部および/あるいは突出部を設けることによる技術的効果に関する記載はない。


3. 論点:

M3の製造方法的特徴はクレーム1の発明を何らかの形で限定するか?


4. ドイツ最高裁の当該製造方法に関する特徴の解釈:

M3の製造方法的特徴はクレーム1の発明を限定しない。


5.判決文の抜粋:

このプロダクトバイプロセスクレームとしての表現は単に特許製品を記述するものであって、実際にM3において記載された方法によって製造された製品を限定するものではない。
Diese Formulierung des Anspruchs als product-by-process-Anspruch dient allein der Kennzeichnung des patentgemäßen Erzeugnisses und bringt keine Beschränkung auf Erzeugnisse zum Ausdruck, die tatsächlich mittels der in Merkmal 3 geschilderten Vorgehensweise hergestellt worden sind.

例え対象特許の明細書を考慮してクレームを解釈したとしても、保護対象をクレームの記述中に用いられた方法ステップに限定すべき示唆はない。
Auch aus der gebotenen Auslegung des Patentanspruchs unter Berücksichtigung der Beschreibung des Klagepatents ergeben sich keine Hinweise auf eine Beschränkung des geschützten Gegenstands durch den zu seiner Kennzeichnung herangezogenen Verfahrensweg.


日本特許庁作成のドイツ特許規則13条(1)の和訳では出願書面の一つである要約書のボリュームについて以下のように記載しています。
第13条 要約
(1) 特許法第36条に従う要約は,1,500語以下とすることが好ましい。
「1500語」というと米国や欧州と比較してかなり多いです。したがってドイツ向けの出願では要約書のボリュームを多くできると思われる方も居るかもしれません。

しかしこの「1500語」という和訳は誤りです。

以下の実際のドイツ語の原文によるドイツ特許規則13条(1)を見てみますと「1500 Wörter (1500語)」では無く、「1500 Zeichen(1500文字)」と記載されていることが分かります。
§ 13 Zusammenfassung
(1) Die Zusammenfassung nach § 36 des Patentgesetzes soll aus nicht mehr als 1500 Zeichen bestehen.
したがってドイツ特許規則13条(1)の正しい和訳は

「特許法第36条に従う要約は,1,500文字以下とすることが好ましい。」

になります。

なおドイツでは要約書のボリュームを単語数ではなく文字数で制限しているのはドイツ語の言語学的性格に起因します。

ドイツ語では複数の単語を1つの単語に纏めることができるため1つの単語の文字数が多くなる傾向があります。

このため要約書の単語数のみを制限したとしても、実際のボリュームの制限力は限定的です。このため単語数ではなく文字数の制限によって要約書のボリュームが制限されています。



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