徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

カテゴリ: 費用

外国特許取得に伴う外国代理人の費用が相場と比較して高いのか安いのかは出願人の気になる所です。しかし外国代理人費用の相場に関する情報はほとんど公開されていません。また私自身は現在働いている事務所の料金体系については熟知していますが、他の欧州代理人の費用がどの程度かまでは把握していません。

そこで欧州代理人に仕事を依頼することがある日本の知財関係者の皆様からの欧州代理人費用に関する情報を頂くことで欧州代理人費用の相場観を形成できればと思い、「1.欧州移行時の欧州代理人費用」および「2.OA対応時の欧州代理人費用」という名のアンケートを作成してみました。

「1.欧州移行時の欧州代理人費用」ではPCT出願の欧州(EPO)移行依頼の際に欧州代理人から請求される代理人費用の大まかな平均額が該当する選択肢にチェックをお願いします。

「2.OA対応時の欧州代理人費用」では日本側でOA対応の指示書を作成し、欧州代理人がその指示書に基づいて意見書および補正書を作成する際に欧州代理人から請求される代理人費用の大まかな平均額が該当する選択肢にチェックをお願いします。

アンケートにお答え頂けますとこれまでのアンケート結果を見ることができます。お時間のあるときにでもご協力頂けましたら幸いです。







欧州特許庁での手続き言語が英語の場合、EPC規則71条(3)の通知に対する応答の際には許可予定クレームの独訳および仏訳を提出することが求められます(EPC規則71条(3)の通知って何?という方は過去の記事「EPC規則71(3)の通知は特許査定ではありません」をご参照下さい)。

このクレームの独訳および仏訳は通常欧州代理人が人力で翻訳したものが提出されます。このためクレームの文字数が多い場合はこのクレームの翻訳費用もバカになりません。

一方でドイツおよびフランスにおける侵害訴訟または取消手続の際に正文となるのはEPC70条(1)に従い手続言語(英語)による欧州特許です。

すなわちEPC規則71条(3)の応答の際に提出するクレームの独訳および仏訳はドイツおよびフランスにおいて権利範囲の解釈に参照されません。このためEPC規則71条(3)の応答の際に提出するクレームの独訳および仏訳は不正確であったとしても実質的なデメリットなく、この独訳および仏訳をグーグル翻訳のような機械翻訳で作成したとしても後々問題となることはありません。

しかしながら欧州代理人の立場としてはクライアントからの許可なく機械翻訳で作成したクレームの独訳および仏訳をそのまま提出するということは倫理上できません。一方でクライアントからの明示的な指示があれば欧州代理人もクレームの独訳および仏訳を機械翻訳だけで対応すると思います。

したがってこのクレームの独訳および仏訳にかかる費用を抑えたい場合は、欧州代理人に機械翻訳のみで対応すべきことを指示することをお勧めします。

12月15日追記:
仏語および独語を公用語とするルクセンブルグでは、クレームの独・仏訳がEPOでの手続言語の英語のクレームよりも狭い場合、クレームの独・仏訳が正文となります(EPC70条(3))。このためルクセンブルクで欧州特許を有効化させたい場合は、正確な独・仏訳があった方がよいです。機械翻訳だけではリスクが大きいです。

参考条文
Rule 71(3) EPC
Before the Examining Division decides to grant the European patent, it shall inform the applicant of the text in which it intends to grant it and of the related bibliographic data. In this communication the Examining Division shall invite the applicant to pay the fee for grant and publishing and to file a translation of the claims in the two official languages of the European Patent Office other than the language of the proceedings within four months. 

Article 70(1) EPC
The text of a European patent application or a European patent in the language of the proceedings shall be the authentic text in any proceedings before the European Patent Office and in any Contracting State.


以前の記事でドイツの職務発明制度ではドイツの従業者発明法に基づき使用者に多くの義務が課せられているものの、実際は使用者が従業者から従業者発明法(13条、14条および16条)に基づく権利を買い取ることでこの義務が免除される旨を説明しました。

ここで気になるのがこの権利の買取りの相場がいくらであるかです。

少し古いのですがその相場の参考になるのが2004年にドイツ連邦産業連盟(BDI)およびドイツ使用者連盟(BDA)に対してなされた従業員発明の報酬に関するアンケート結果です。このアンケートでは権利買取りの相場についても触れられています。

そのアンケートの結果では権利買取りの値段は以下のようになっています。

(1)従業者発明法第14条および16条の権利買取りの値段
従業者発明法第14条(外国出願の権利の譲渡提案義務)および16条(国内出願権利の譲渡提案義務)の権利のみの買取りを行っている企業では、権利の買取の平均買取金額は320ユーロでした。買取金額は最高で1000ユーロで、多くの場合100~600ユーロ内に収まりました。

(2)従業者発明法第13条、14条および16条の権利買取りの値段
上述の従業者発明法第14条および16条の権利に加えて、従業者発明法第13条(国内出願義務)の権利の買取りを行っている企業では、平均買取金額は430ユーロでした。買取金額は最高で1000ユーロ、最低で50ユーロで、多くの場合150~600ユーロ内に収まりました。

結論

現在では上述のケース(2)のように従業者発明法第14条および16条だけではなく13条の権利も買い取るのが主流と思います。また個人的な感覚では権利買取りの現在の平均価格は2004年よりも10~20%ほど高くなっています。

つまり現在の従業者からの権利の買取りの相場は500ユーロ程度になると思われます。

注意すべき点は、この権利の買取りの対価はドイツ従業者発明法第9条で定められた職務発明の対価とは別物であるということです。したがって権利の買取りとは別に職務発明の対価として従業者に適切な額を支払う必要があります。

参考資料:
・Novellierung des ArbEG – Keine Ende in Sicht: Die. Industrie reagiert mit Incentive-Systemen in: Einsele, R. W., Franke, E. R. (2005). Festschrift 50 Jahre VPP
ドイツ従業員発明法(日本語)


欧州代理人を選択する上で代理人費用は極めて重要な事項であると思います。このため欧州代理人を選択するにあたってはいくつかの事務所から料金表を取り寄せ、各事務所の費用を比較するのが通常だと思います。

しかしながら各事務所の料金表をいうものは標準化されているわけではありません。例えばある事務所の出願費用には優先権主張手続きも含まれているが、他の事務所では優先権主張手続きが別途請求されるといったことが多々あります。

また出願段階の費用は低く抑え、低く抑えた分をOA対応時または特許査定時に回収する戦略を取る事務所もありますので、出願時の費用が安いからといって、登録までの費用が安くなるとは限りません。

そこで欧州代理人の費用を効率的に比較するために、例として欧州特許出願の出願から登録までに想定される各手続きを項目分けした以下のようなシートを作成してみました。

Table_for_fee_comparison

エクセルファイスもご自由にご利用下さい。
http://blog.livedoor.jp/hasenfus/Table_for_fee_comparison.xls

当該シートを取引を検討している欧州代理人に記載してもらえば、どの手続きにどれだけの代理人費用がかかるかが明確に分かりますし、OA対応時の費用を記載してもらうことで登録まで大体いくらぐらいかかるかを見積もることができます。このため出願から登録までの欧州代理人の費用を効率的に比較することができます。

欧州における代理人費用が「hourly rate×欧州代理人の作業時間」と作業時間に依存することを踏まえ、欧州代理人の作業時間を減らすために日本側でできることについて検討してみました。
まずは欧州代理人に出願の依頼をする際にできることを列挙します。


1.簡潔明瞭な英文明細書を準備する

明細書が長いとどうしても発明の把握に時間が掛かり欧州代理人費用が嵩んでしまいます。このため日本語明細書作成段階から、例えば複数の実施形態に共通する特徴を繰り返し記載することを避けたり、明らかに発明に関係のない事項を記載しない等のことに留意し、明細書をコンパクトにすることが好ましいです。

また明細書が短くとも英文が不明確であれば発明の把握に時間が掛かってしまいます。したがって日本語明細書作成段階から、文を短く区切ること、1文内で主語・熟語・目的語を明確にすること、特許用語を乱用しないことなどに気を付け、英訳しやすい明細書を作成することに心掛けることをお勧めします。


2.クレーム内の各特徴の後に符号を付す

欧州ではEPC規則43条(7)の規定によりクレーム内の各特徴の後には括弧に入れられた対応する図面内の符号を挿入ことが好ましいとされています。しかし特に機械系の発明では8割以上の確率で審査官によりクレーム内に符号を挿入することが求められます。このため予め依頼時に符号が挿入されたクレームを用意しておくことが好ましいです。

もちろん符号を挿入する作業を欧州代理人に任せることもできますが、日本からの依頼の場合は欧州代理人が明細書を作成したわけではないので、どうしても符号の確認作業に時間がかかってしまいその分代理人費用が嵩んでしまいます。

また依頼時に符号が挿入されたクレームが欧州代理人の手元にあれば、図面とクレームとを対比するだけで短時間で大まかに発明を把握することができるので、その後のOA対応の際の代理人の作業時間を減らす効果も見込まれます。

ちなみに複数の実施形態が存在し、1つの特徴の対して複数の符号が存在する場合は、最も重要な実施形態(通常は第1実施形態)の符号をクレームに挿入するだけで足ります(ガイドラインF-IV, 4.19)。また符号はクレームを限定するとは解釈されません(EPC規則43条(7))。


3.従属クレームを増やす

欧州特許庁の調査部門は独立クレームおよび従属クレームの特徴を調査することが義務付けられています(ガイドラインB-III, 3.7)。一方で明細書のみに記載されている特徴については調査することが義務付けられていません(T1679/10)。

このため例えば出願が1つの独立クレームしか含まない場合は:

  第1OAで文献1が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Aを追加して文献1に対して新規性を確保
  ↓
  第2OAで文献2が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Bを追加して文献2に対して新規性を確保
  ↓
  第3OAで文献3が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Cを追加して文献3に対して新規性を確保
  ↓
  第4OAでようやく特許性が認められる

と引用文献が小出しにされ権利化手続が極めて非経済的になる恐れがあります。

一方、上記例で特徴A、BおよびCに関する従属クレームを予め出願時に準備しておけば最初のOAで審査官が特徴Cに関して特許性を認めることを確認できます。このため調査してほしい特徴は予め従属クレームに明記しておくことをお勧めします。

一方クレーム数が16以上になると1クレームごとに235ユーロの追加費用が発生してしまいますので、コストパフォーマンスの観点からクレームの数は15以内に抑えることが好ましいです。


4.PCT出願の移行時に明細書の補正を指示しない


PCT出願の移行依頼時に移行と同時に誤記・誤訳等の訂正を目的とした明細書の補正の指示を頂くことがあります。しかし移行時の明細書の補正は以下の2つの理由からお勧めしません。

1つ目の理由は明細書の補正が無駄になる恐れがあるからです。欧州では特許査定の前に補正により審査官により引用された引用文献を明細書に列挙し、補正後のクレームに含まれない実施形態を削除等して明細書をクレームに適合させる作業があります。このためわざわざ移行時に誤記・誤訳を訂正した箇所が適合作業により削除され、移行時の明細書の補正が無駄になる恐れがあります。

2つ目の理由は補正により追加ページ費用が発生する恐れがあるからです。欧州では出願書面のページ数が35ページを超えると1ページごとに15ユーロの追加費用が発生します。そしてこのページ費用は通常国際公開のページ数を基に算出されます。すなわち例えば国際公開された日本語出願書面のページ数が35ページの場合はページ費用は掛かりません(過去の記事「Euro-PCT出願のページ費用(Page Fee)の計算方法」を参照下さい)。

しかし移行時に明細書の補正をすると補正後の英文明細書のページ数を基にページ費用が算出されます。一般的に英文明細書のページ数は日本語明細書のページ数よりも20~30%多くなるので、移行時の明細書の補正により本来は支払う必要のなかったページ費用が発生してしまう恐れがあります。一方、移行後(例えばEPC規則161条の通知の際に指定された期間)に明細書を補正しても追加費用が発生することはありません(ガイドラインA-III, 13.2)。

このため移行と同時の明細書の補正は避けることをお勧めします。もしクレームの解釈に重大な影響を与えうる誤記等がありどうしても審査開始前に明細書の補正が必要な場合には、EPC規則161条の通知の際に指定された期間に明細書の補正を指示することをお勧めします。


5.出願(移行)手続きおよび庁費用納付を自ら行う

以前の記事「代理人を必要としない手続き(欧州)」でも説明しましたが、出願(移行)手続および庁費用の納付手続は欧州代理人経由でなくとも自ら行うことができます。

このため出願(移行)手続および庁費用納付手続を自ら行うことで、当該作業に掛かる欧州代理人費用を削減することができます。

この手法による費用削減効果は絶大ですが、この手法は欧州代理人のパイを直接的に奪う行為としても解釈されかねないので協力してくれる欧州代理人を探すことが難しいかもしれません。




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