日本と同様、ドイツでも第三者が権限無く登録商標と同一または類似の商標を指定商品・役務と同一または類似の商品・役務に使用する行為は侵害を構成し、商標権者は差止請求権(Unterlassungsanspruch)に基づいてその侵害の停止または予防を請求することができます(ドイツ商標法第14条)。

一方で、既存の登録商標と同一または類似の商標を指定商品・役務と同一または類似の商品・役務について商標出願(以下「侵害商標出願(Anmeldung einer rechtsverletzenden Marke)」とも称する)をする行為自体は、商標の使用に該当しません。したがって侵害商標出願自体は日本と同様に商標権の侵害するとは解釈されません。しかしドイツでは商標出願は、特段の事情がない限り将来の使用を意図するものであることから、侵害商標出願は侵害のおそれ(Erstgebehrungsgefahr)を構成すると解釈されます(I ZR 151/05)。このため商標権者は、侵害の予防のために差止請求権に基づいて侵害商標出願の取り下げまたは放棄を請求することができます(I ZR 151/05)。

このような侵害商標出願は、ドイツ商標法の下では商標権者が取下・放棄請求をするまでもなく通常、審査段階で弾かれるので(ドイツ商標法第9条)、ドイツにおいて商標権者が侵害商標出願の取下・放棄請求をすることはまずありません。

一方で、共同体商標(Community Trademark)の場合は、商標出願に係る商標および指定商品・役務が既存の登録商標と同一または類似であることは不登録理由とならないので、異議申立がない限り侵害商標出願であってもそのまま登録が認められます。この場合、商標権の差止請求権に基づく侵害商標出願の取下・放棄請求が異議申立よりも安価な場合があるので、商標権者は、異議申立に代えてまたは異議申立と同時に侵害商標出願の取下・放棄請求をすることがあるそうです。