欧州特許庁の審判部(Board of Appeal)は2016年の審判部の独立性を高めるための組織再編の一環でその所在地がミュンヘン郡(Landkreis München)のミュンヘン市から同じミュンヘン郡のハール(Haar)市に移転しました(https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2016/20160704.pdf)。この結果、現在では審判部による審理および審判における口頭審理は全てハール市で行われています。

しかしながらこの度、審判部が中間判決T0831/17でこの審判部の所在地が欧州特許条約(EPC)に適合しているか否かに関する質問を拡大審判部に付託しました。より詳細には口頭審理の権利に関する3つの質問が拡大審判部に付託しました(http://patentblog.kluweriplaw.com/2019/03/01/the-haar-in-the-soup/)。そして審判部の所在地に関連するのが以下の3つ目の質問です。

「審判請求人が審判部のハール市における所在が欧州特許条約に適合していないと非難し、口頭審理の場所をミュンヘンに変更する請求した場合であっても審判部は欧州特許条約に違反することなくハール市において口頭審理を行うことができるか?」


1.論点

この質問で論点となるのは欧州特許庁の所在地を規定する以下のEPC6条(2)における「ミュンヘン」がハール市を含む「ミュンヘン」を意味するのか、それともハール市を含まない「ミュンヘン」を意味するかです。

EPC6条(2)
「欧州特許庁は、ミュンヘンに設置され、欧州特許庁は、ヘーグにその支庁を定める。」

なおT0831/17では審判部は明らかにEPC6条(2)における「ミュンヘン」は、ハール市を含まない「ミュンヘン市」を意味するとの立場を取っています。このため現在の審判部のハール市における所在地はEPC6条(2)に違反していると暗に主張しています。


2.考えられうる影響

この拡大審判部への付託は、少なくとも審判部から既に口頭審理が召喚状が送付された全ての係属中のケースに影響を及ぼし得ます。仮に拡大審判部の審決まで影響を受ける事件の審理が停止されるということになれば、影響は甚大です。

また拡大審判部がEPC6条(2)における「ミュンヘン」は「ミュンヘン郡」ではなく「ミュンヘン市」と判断した場合には、審判部はまた莫大な費用をかけてハール市からミュンヘン市に引っ越すことも考えられ混乱は必至です。

経過を注視したいと思います。


3.参考情報

本事件T0831/17の判決文は、一週間前までは欧州特許庁の判決データベースからダウンロードができたのですが、なぜか現時点では判決データベースからアクセスできなくなっています。事件の詳細に興味がある方のために判決文(ドイツ語)のPDFデータを準備しましたのでもしよろしければご参照下さい。