徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2019年08月

ドイツではプロダクトバイプロセスクレーム(以下PbPクレーム)の解釈に審査時も侵害判断時も物同一説を採用します。今回はこの物同一説の考えがよく表れた侵害事件におけるドイツ最高裁(BGH)の判決(事件名:Kochgefäß、ケース番号:X ZR 81/13)を紹介します。


1. クレーム1

 M1: 被覆底部(18)を有する調理鍋(10)であって、
 M2: その被覆底部の保護被覆(22)の周壁(26)に、隆起部(28、30)および/あるいは陥没部(32、34)が形成され、
 M3: 前記隆起部(28、30)および/あるいは前記陥没部(32、34)は、前記被覆底部(18)を製造するために使用される成形型に対応した凹陥部および/あるいは突出部を設けることで得られる、調理鍋(10)。
PbP
2. 明細書:

被覆底部を製造するために使用される成形型に対応した凹陥部および/あるいは突出部を設けることによる技術的効果に関する記載はない。


3. 論点:

M3の製造方法的特徴はクレーム1の発明を何らかの形で限定するか?


4. ドイツ最高裁の当該製造方法に関する特徴の解釈:

M3の製造方法的特徴はクレーム1の発明を限定しない。


5.判決文の抜粋:

このプロダクトバイプロセスクレームとしての表現は単に特許製品を記述するものであって、実際にM3において記載された方法によって製造された製品を限定するものではない。
Diese Formulierung des Anspruchs als product-by-process-Anspruch dient allein der Kennzeichnung des patentgemäßen Erzeugnisses und bringt keine Beschränkung auf Erzeugnisse zum Ausdruck, die tatsächlich mittels der in Merkmal 3 geschilderten Vorgehensweise hergestellt worden sind.

例え対象特許の明細書を考慮してクレームを解釈したとしても、保護対象をクレームの記述中に用いられた方法ステップに限定すべき示唆はない。
Auch aus der gebotenen Auslegung des Patentanspruchs unter Berücksichtigung der Beschreibung des Klagepatents ergeben sich keine Hinweise auf eine Beschränkung des geschützten Gegenstands durch den zu seiner Kennzeichnung herangezogenen Verfahrensweg.


2019年10月の私長谷川の日本での出没予報(仮)です。

10月7日(月) 徳島/研修講師
10月8日(火) 愛知/クライアント訪問
10月9日(水) 大阪/クライアント訪問
10月10日(木) 愛知・東京/クライアント訪問
10月11日(金) 東京/クライアント訪問・研修講師

打ち合わせの日程等にご参照下さい。


この度、日・米・欧の3事務所による合同主催のセミナーで私長谷川が講師を務めさせて頂くことになりました。 セミナーの案内は以下の通りです。
Seminar
受講者の方々にとって有意義な情報および時間を提供できるよう努めますよろしくお願いいたします。
皆様どうぞ奮ってご参加下さい。


欧州特許出願のOA対応でクレーム1は補正せず、新たな従属クレームを追加する補正の指示を受けることがあります。これは補正無しのクレーム1の特許性が認められなかった際には新たに追加した従属クレームの審査してもらうことを期待した指示だと思われます。しかしながらほとんどの場合その期待は裏切られることになります。

そもそも欧州特許庁のガイドラインは出願時(調査段階前)にある従属クレームの特許性を審査することを明確に審査官に義務付けていますが(GL B-III, 3.7)、出願後に例えば拡張欧州調査報告(EESR)に対する応答の際に追加された新たな従属クレームの特許性を審査する義務はガイドラインに明示されていません。

したがってほとんどの場合、審査官はクレーム1の特許性が認められないと判断した際には、新たに追加された従属クレームの審査することなく新規のOAを発行します。

このため欧州特許庁におけるOA対応で新たな従属クレームを追加する補正はあまり効果的ではありません。

どうしても「クレーム1は補正したくない、けれどもクレーム1の特許性が認められなかったときは追加の特徴も審査してほしい」という場合は、補正無しのクレームを主請求(Main Request)とし、補正いより特徴をクレーム1に追加したものを補請求(Auxiliary Request)とすることをお勧めします。

補請求の審査の義務はガイドラインに明示されていますので(GL E-X, 2.9)、補正無しの主請求の特許性が認められなかった際には、補正により特徴が追加された補請求が確実に審査されることになります。





 我々弁理士のような専門職にとって仕事のノウハウは飯のタネです。したがってこのようなノウハウは秘匿し、自らの競争力を確保すべきである考えもあります。しかし私個人的にはこのようなノウハウは積極的に開示すべきであると思っています。事実、本ブログでは勤務先およびクライアントの営業秘密等に触れない限りは積極的にノウハウを開示するように努めています。

以下に私が考えるノウハウを開示したほうがよい3つの理由を説明します。


1.ノウハウを公開したところで直ぐにマネされるわけではない

仮にノウハウをブログなどで公開した場合であっても、それを実行するにはまた別途さらに細かな知識が求められます。このような細かな知識はノウハウの開示者も意識していないことが多いので公開された内容には表れません。このため公開された情報のみからノウハウを実行することは難しかったりします。

また例え誰でも簡単に実行可能なノウハウだったとしても、実際に経験がないとほとんどの人は不安と恐れにより実行を躊躇してしまいます。

このためノウハウを公開したからといって第三者にすぐにマネされ自らの地位が脅かされるというデメリットは実はそれほど大きくはありません。


2.どうせ誰かが開示する

現在のように情報開示手段が発達した世の中では、自分自身は秘匿にしたいノウハウであっても遅かれ早かれ第三者によって公開されます。いずれ公開されるのであれば誰かが公開するのを指をくわえて待つのではなく、自ら積極的に公開をしたほうが、ノウハウの第一人者の地位を確保できます。


3.ノウハウを創造するようになる

ノウハウを開示することが習慣となると、ノウハウを創造することも習慣となります。このため日々の業務で創意工夫をするようになったり、新たななツールを活用することにも積極的になります。普段何気なく行っている業務であっても無限の工夫と改善の余地があることに気付けます。既存の知識の吸収を超えた創造力が鍛えられます。


まとめ

このようにノウハウを開示することには思われているほどデメリットはなく、ノウハウの第一人者との地位の確保できるというメリットがあります。 さらに、あらゆる分野に普遍的に求められ今後機械による代替が最も難しいであろう人間の能力のうちの一つである創造力が鍛えられることは特に大きなメリットであると思います。

今後も本ブログでは積極的にノウハウを開示していきたいと思います。



↑このページのトップヘ