徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2018年12月

〇マゾンが外国出願仲介ビジネスに参入してきたらどうなるだろうという妄想を短編小説にしてみました。突っ込みどころも多いのであくまでフィクションとしてお読みください。

******************************************

202×年大晦日 

自宅の書斎にて今年最後となる意見書および補正書を完成させる。厳しい納期だったがマゾンから指定された期間内に納品するができた。これでマゾンからの評価が下がることは何とか免れそうだ。

ふとスマートフォンを見ると一足先に帰省した妻から実家ではしゃぐ子供達の写真が送られていた。これはお義父さんもお義母さんも大変だろうな。。。

「仕事が終わったので、今からそちらに向かいます。予定通りの新幹線に乗れそうです」

そうメッセージを送ると、Uberで捕まえたタクシーに乗り込み新横浜駅に向かった。

今年ももうおしまいか。。。。新横浜駅へ向かうタクシーの中色々な思いが頭をめぐる。独立してもう2年か。。。自分が働く特許業界もすっかり変わってしまったものだ。。。。

 オンライン小売りの大手のマゾンが特許業界に参入したというニュースを聞いたのは4年前のことだ。「mazon PCT」との名のサービスの下、これまで主に国内の特許事務所を通してなされていたPCT移行業務をサポートするためのプラットフォームを提供するとのことだ。当時の私はこのニュースの重要性を全く理解していなかった。現地代理人とのやり取りに使えそうだな程度の認識しかなかった。

なんと浅はかだったのであろう。

影響が表れたのはmazon PCTがリリースされて半年後のことだった。まず当時所属していた事務所が担当していた内外業務が目に見えて減り始めた。気になってクライアントに問い合わせてみたところ今後mazon PCT経由で現地代理人とやり取りするこで今後は内外案件の依頼は無いとのことだった。茫然とした。

そこで初めて危機感を感じ、mazon PCTのサービスの詳細を調べた。血の気が引いた。

画期的だったのはオープンなプラットフォームだ。これまで取引のあった代理人であってもmazon PCTのプラットフォームに組み込めるという。なるほどこれはこれまで似たようなPCT移行のプラットフォームサービスを提供していた会社とは一線を画している。また各国の審査状況、OA対応期限、引用文献などの情報が全てクラウドで管理されリアルタイムで確認できる。極めて品質の高い機械翻訳付きの現地代理人とのコンタクトフォームも備わっている。さらに衝撃的なのはその値段だった。PCTの移行手数料は1国あたり現地代理人の費用も含めて500ドルという。しかもどの現地代理人を選んでも値段は一律だ。なんでオープンなプラットフォームでこの低価格を提供できるんだ。太刀打ちできるわけがない。

水は高きから低きへ流れる。慎重で知られる日本企業もそのコストの安さと利便性の高さには抗えなかったようだ。当時所属していた特許事務所は内外業務を失った。

次に影響を感じたのはこれまで海外の代理人から来ていた外内の依頼がmazon PCT 経由で来るようになった時だ。少なくとも外内業務はこれまで通りと思っていたのだが、ここでもマゾンの恐ろしさを知ることになる。

出願手続、審査請求、OAの転送、庁費用の納付などの事務手続き一切はmazon PCTのアルゴリズムによって自動化されるため、事務作業にかかる費用は請求できないとのことだ。唯一請求できるのは弁理士によるOA対応の費用のみ。移行費用一律500ドルという安さの秘密はここにあったのだ。内外業務を失った当時の事務所にとっては反論の余地など残されていなかった。多くの特許事務所では大量の事務員が余ってしまった。

OA対応をする弁理士に対しても風当りは強くなった。mazon PCTによって弁理士の処理速度、ミスの頻度、査定までの時間、値段、対応の良さなどのパフォーマンスが数値可され、マゾンで閲覧可能になった。弁理士はマゾンが提供する多くの商品のうちの1つとなったのだ。数値は無情だ。パフォーマンスの低い弁理士の下には仕事が来なくなってしまった。

余剰事務員および余剰弁理士を抱えた多くの事務所が廃業を迫られた。当時所属していた事務所を去りマゾンから直接仕事を請け負う形で独立したのはそのころだ。これまでの業界の常識はわずか2年の間にあっけなく崩れ去った。mazon PCTはその後パリ経由出願そして国内出願までにもサービスの幅を広め留まることを知らない。似たようなサービスを提供していた会社もあったが、〇マゾンがプラットフォームの覇者となった後はいつの間にか消えていた。

〇mazon PCTの出現によって待遇が下がった弁理士達が〇マゾンを呪った。しかしそれは間違いだと思う。対抗できるサービスを構築できなかった我々弁理士が悪いのだ。互いにライバル視するのではなく出願人を中心とした業界全体の利益を考え協力していればこうも容易く覇権を奪われることはなかったはずだ。我々はそれを怠ったのだ。呪うべきは自らの怠慢だ。〇マゾンを呪うのは間違っている。

しかも社会全体としてみるとむしろプラスなことが多い。

企業は〇mazon PCTの利用によって得られた余剰資金でさらに多くの出願をするようになり、特許業界のパイも大きくなった。ビジネスチャンスも増えた。

我々弁理士だって翼を捥がれたわけではない。

〇マゾンから評価は厳しいがフェアだ。〇マゾンから高評価を得ておけば新規クライアントの獲得のための営業活動は必要ない。今年はタイムチャージを10%を上げたにも関わらず去年以上の依頼が来るようになった。〇マゾンが事務手続きを担ってくれるようになったお蔭で私のような新参個人弁理士であっても歴史ある大手事務所と同じ土俵で戦える。

またこれまで現地代理人を介して出なければコンタクトできなかった海外クライアントと直接コンタクト取れるようになったことで、よりクライアントが求めるサービスを提供できるようになったのも事実だ。予想外だったのは〇mazon PCTのプラットフォームの枠組みに入りきらない係争関係の仕事も増えてきたことだ。

最近は一人では業務がきつくなって来たので来年は特許技術者を採用する予定だ。

この世に発明が生まれる以上、我々弁理士は形を変えれど価値を提供できるはずだ。逆風を追い風に変え高く飛んでみせる。

ようやく新横浜駅に着いた。お土産は何がよいかな?お義母さんはレーズンサンドが好きだったな。お義父さんには日本酒でよいか。

新幹線内のプチ一人忘年会用にハイボール、チーカマそして味付けホタテを買う。ご機嫌な忘年会になりそうだ。

そして新幹線に乗り込む。今年も良い年だった。来年もより良い年となりますように。


I. 背景

近年欧州特許庁で審査が促進され、かつ特許査定の発行数が増えてきたことを踏まえ、欧州特許庁における審査で一発許可の比率が上がったかどうかを調べてみました。


II. 方法

使用したツール:
EP Bulletin Search (データベース:BULL 2018/27)

一発許可の比率の指標の求め方:
一発許可(第1審査通知が許可予定通知)の比率の指標として審査請求と許可予定通知(EPC規則71条(3)の通知)とが同じ年になされたケースの比率を以下のように求めました。

審査請求と許可予定通知とが同じ年になされたケースの数/その年の全許可予定通知の数

審査請求と許可予定通知とが同じ年になされたケースでは、ほとんどの場合許可予定通知が審査過程における第1審査通知になります。ただしこの計算方法では許可予定通知が第1審査通知であっても審査請求が別の年になされたケースは考慮されません。

第2審査通知が許可予定通知の比率の指標の求め方:
第2審査通知が許可予定通知の比率の指標として第1審査通知と許可予定通知とが同じ年になされたケースの数の比率を以下のように求めました。

第1審査通知と許可予定通知とが同じ年になされたケースの数/その年の全許可予定通知の数

第1審査通知と許可予定通知とが同じ年になされたケースでは、ほとんどの場合許可予定通知が第2審査通知になります。ただしこの計算方法では許可予定通知が第2審査通知であっても第1審査通知が別の年に発行されたケースは考慮されません。


III. 結果:
Grant_When
IV. 考察:


左のグラフからは一発許可の比率は増えておらず、むしろ2013年と比較して減少していることが分かります。一方で右のグラフからは第2審査通知が許可予定通知であるケースは2015年から増えていることがわかります。これは欧州特許庁での審査が促進され、特許査定の発行数が急激に増えた年と重なります。

この結果は、最近の欧州特許庁の審査官は、第2審査通知で許可予定通知を出すことで審査を促進させていることが示唆されます。また個人的な感覚では第2審査通知以降も落としどころが不明なケースでは口頭審理に召喚されるケースが増えてきた気がします。

このため早期権利化の観点からは第2審査通知まで、すなわち第1審査通知に対する応答の時までに落としどころを決めておくことをお勧めします。また審査官が許可予定通知を出しやすいように第1審査通知に対する応答の際に明細書もクレームに併せて適合させておくことが好ましいです。


この度、日本弁理士会関東支部主催の研修で私長谷川が講師を務めさせて頂くことになりました。 研修の日程および概要は以下の通りです。  

・演題: 「2時間で学ぶ欧州特許庁における審判手続の概要」  
・日時: 2019年2月22日(金) 18:30~20:40  
・会場: 弁理士会館3階会議室 
・定員: 180名

受講者の皆様にとって有意義な情報および時間を提供できるよう努めますので、欧州特許庁における手続きにご興味のある方は是非ともご参加下さい。




欧州特許庁およびドイツ特許庁は2018年12月22日(土)~2019年1月1日(火)まで閉庁します。

ソース:
https://www.epo.org/service-support/updates/2018/20181212.html



EPC54条(4)および(5)では「物質又は組成物(substance or composition)」の発明についてその物自体が公知であっても医薬用途が新規であれば新規性が認められる旨が規定されています。

ここで気になるのが何が「物質又は組成物(substance or composition)」に含まれるかということです。「物質又は組成物(substance or composition)」に薬理効果を有する化合物およびそれを含む組成物が含まれることは自明です。しかし近年注目されている細胞治療や細胞医薬品のように細胞自体が投与の対象となる場合はどうなのでしょう?細胞を「物質又は組成物(substance or composition)」に含めるのは文言上無理があるような気がするので細胞はEPC54条(4)および(5)の対象とならないとも考えられます。

気になったので欧州特許庁の判決を調べてみましたが今まで細胞が54条(4)および(5)の「物質又は組成物(substance or composition)」に該当するかについて争われたケースは発見できませんでした。それでも気になったので欧州特許庁に問い合わせてみたところなんと欧州特許庁の特許法総局(Directorate Patent Law)からの非拘束的回答が得られました。

特許法総局(Directorate Patent Law)からの非拘束的回答によるとEPC54条(4)および(5)における「物質又は組成物(substance or composition)」とは一般的に薬剤(medicaments)または医薬品(drugs )と称される製薬業界の製品を意味します( T 773/10)。この定義に照らし合わせると細胞治療において投与対象となる細胞はEPC54条(4)および(5)の「物質又は組成物(substance or composition)」に該当するとのことです。

したがって細胞自体が公知であってもその細胞医療における医薬用途が新規であれば欧州で権利化できる可能性があります。

しかしこれはあくまで欧州特許庁の非束縛的回答なので今後欧州特許庁の審判部(Board of Appeal)によってこの見解が否定される可能性はあるのでご注意下さい。また細胞治療や細胞医薬品に関する発明は不特許事由(EPC53条、EPC規則28条)によって権利化できないこともありますのでご注意下さい。

参考条文:
Art. 54(4) EPC
Paragraphs 2 and 3 shall not exclude the patentability of any substance or composition, comprised in the state of the art, for use in a method referred to in Article 53(c), provided that its use for any such method is not comprised in the state of the art.

Art. 54(4) EPC
Paragraphs 2 and 3 shall also not exclude the patentability of any substance or composition referred to in paragraph 4 for any specific use in a method referred to in Article 53(c), provided that such use is not comprised in the state of the art.


↑このページのトップヘ