徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2018年10月

先日の記事「ドイツの裁判所によるクレーム解釈の原則」で保護の範囲はクレームによって決定されることを説明しました(ドイツ特許法14条)。今回はこの原則を疑ってしまうようなドイツ最高裁(BGH)の判決(事件名:Rotorelemente、ケース番号:X ZR 43/13)を紹介します。


1. クレーム1

 […]
 各要素(8)の少なくとも一部を打ち抜くことによって本体部分(10)を提供するための静止した第1ダイ部材(22)と、
 打ち抜きにより各要素(8)のポール部分(12)を提供するための可動の第2ダイ部材(32)と、[…]
 を含む機械。


2. 明細書の記載
Rotor

ダイ部材22は、ロータ要素のポール部分の周囲の一部に対応するダイ面をそれぞれ提供する2つのダイ開口24a、24bを含む。
"The die member 22 comprises two die apertures 24a, 24b, each providing a die surface which corresponds to part of the periphery of the pole portion of a rotor element."

可動ダイ型部材32は、本体部分10の一方の側に対応するダイ面をそれぞれ提供するダイ開口34a、34bと、2つのダイ開口34a、34bの間に延びる第3のダイ開口35とを含む。
"The moving die member 32 comprises die apertures 34a, 34b each providing a die surface corresponding to one side of a body portion 10, and a third die aperture 35 extending between the two die apertures 34a and 34b."

解説:
クレーム上では第1ダイ部材(22)が提供するのは本体部分(10)で、可動の第2ダイ部材(32)が提供するのははポール部分(12)とされています。しかし明細書を参照するとこれは明らかに誤りで、正しくは第1ダイ部材(22)が提供するのがポール部分(12)で、可動の第2ダイ部材(32)が提供するのが本体部分(10)であることが分かります。


3. 論点
明細書および図面を参照するとクレーム1における本体部分(10)およびポール部分(12)との順序が明らかに間違いであることが分かる場合、クレーム1はどのように解釈すべきか。


4. BGHの判断

4.1. 結論
明細書、図面、および従属クレームの全体的な内容から、クレーム1において、本体部分とポール部分とが逆転しており、クレーム1は、以下のように解釈べきであることが明らかである。

 […]
 各要素(8)の少なくとも一部を打ち抜くことによってポール部分(12)を提供するための静止した第1ダイ部材(22)と、
 打ち抜きにより各要素(8)の本体部分(10)を提供するための可動の第2ダイ部材(32)と、[…]
 を含む機械。

4.2. 判決文の抜粋
明細書および他のクレームを参照してクレームを解釈した結果、クレームで用いられた2つの用語を入れ替えるべきことが明らかな場合、クレームの意味を追求するに際し、それ自体が明確な文言は決定的ではない。
”Bei der Ermittlung des Sinngehalts eines Patentanspruchs ist auch ein für sich genommen eindeutiger Wortlaut nicht ausschlaggebend, wenn die Aus-legung des Anspruchs unter Heranziehung der Beschreibung und der weite-ren Patentansprüche ergibt, dass zwei im Patentanspruch verwendete Be-griffe gegeneinander auszutauschen sind.”



欧州特許庁では出願書面のページ数が35ページを超えると1ページ毎に15ユーロの追加費用(ページ費用)が発生します(EPC38条(2))。1ページで15ユーロというと微々たるように聞こえますが、出願書面のページ数が嵩むとこのページ費用も結構な金額になります。

特に化学系の出願になると明細書だけで100ページを超えるというケースも稀ではありません。この場合追加費用だけで975ユーロ(15×(100-35))以上となってしまいます。

今回はこのページ費用を抑える2つの手段をご紹介します。


1.PCT出願の欧州移行時に明細書の補正をしない

PCT経由の欧州特許出願の場合、ページ費用は通常国際公開のページ数を基に算出されます。例えば国際公開された日本語出願書面のページ数が35ページの場合はページ費用は発生(過去の記事「Euro-PCT出願のページ費用(Page Fee)の計算方法」を参照下さい)。

しかし移行時に明細書の補正をすると補正後の英文明細書のページ数を基にページ費用が算出されます。一般的に英文明細書のページ数は日本語明細書のページ数よりも20~30%多くなるので、移行時の明細書の補正により本来は支払う必要のなかったページ費用が発生してしまう恐れがあります。このためページ費用の観点から移行と同時の明細書の補正は避けることが好ましいです。

一方、移行後(例えばEPC規則161条の通知の際に指定された期間)に明細書を補正しても追加費用が発生することはありません(ガイドラインA-III, 13.2)。したがってどうしても調査開始前に明細書の補正が必要な場合には、EPC規則161条の通知の際に指定された期間に明細書の補正を指示することをお勧めします。


2.規則に定められた範囲で1ページの文字数を増やす

EPC規則49条で定められている最小の余白、行間及び文字サイズは以下の通りです。
pagefee
余分な余白、行間および文字サイズを省くことで1ページ辺りの文字数を増やすことができページ数を圧縮することができます。ただし文字サイズはあまり小さくすること読みずらいので最低でも10pt程度に留めておくことをお勧めします。

この1ページ辺りの文字数を増やす方法は、英文出願書面でページ費用が計算されるパリルートでの欧州特許出願で主に有効な手段です。

PCT出願の場合は上述のように原則日本語の公開広報に基づいてページ費用が計算されるので出願書面の英文翻訳のページ数を圧縮してもページ費用の削減に直接的な効果はありません。ただしPCT経由の欧州特許出願の場合であっても分割出願をした場合は、英文翻訳のページ数を基にページ費用が換算されます。このためPCT経由の場合であっても分割出願が必要になる場合を考慮して出願書面の英文翻訳のページ数を圧縮することには意義があります。


Bild2

1 . Thinkpad X1 Carbon

出張時のメインのノートPCです。14インチと比較的大きなディスプレイを搭載しながらもPC自体のサイズは13インチ並なので持ち運びも容易です。

また薄型ながらもThinkpadシリーズの特色であるキーボードの打ちやすさも確保されています。リモートで仕事をする場合、キーボードの打ちやすさは侮れない要素です。打ちにくいキーボードを使っているとジワジワとストレスおよび疲労がたまります。


2.iPad Pro + Apple Pencil

移動中および打ち合わせ時にサブのPCとして活用しています。それ以外にも文献閲覧+手書きメモ用のサブディスプレイとしても活用します。また出張先で急遽手書きの署名が必要となった際でもiPad ProとApple Pencilとの組み合わせにより書面を印刷することなく署名をすることができます。Apple Pencilの反応速度は極めて速いのでほとんど手書きと変わらない感触が得られます。出張中など印刷設備が限られた環境下でのリモートワークでは必須のアイテムだと実感しています。


3.ASUS ZenScreen


出張業務自体は上記ノートPCとiPadとの組み合わせでなんとかなるのですが、出張中に急遽OA対応など案件処理が必要となった場合は上記2点だけでは効率よく業務ができません。紙の資料を準備できない状況だとノートPCとiPadとでデュアルディスプレイを確保できたとしても2以上の文献を見比べながら書面作成を同時に効率的に行うということが困難だからです。

そこで活躍するのが薄くて軽いモバイルディスプレイであるASUS ZenScreenです。これにより出張先のホテルであってもノートPCとiPadとASUS ZenScreenとでトリプルディスプレイの環境を確保することができます。このトリプルディスプレイ環境によりペーパーレスであってもOA対応ぐらいであれば普段と変わらない効率で案件を処理することができます。

だたこのASUS ZenScreenには外光を強く反射してしまうという欠点があります。この欠点は反射防止用フィルムを活用することで抑えることができました。


4.ポケットWifi


一部のホテルのWifiではVPN接続ができないことがあります。このためいかなる場所でも安全な接続を確保するためにポケットWifiを携帯しています。



セミナーまたは研修のスライド資料だけでもよいので提供して欲しいとのお問い合わせをよく頂戴するので、セミナーおよび研修に用いたことがあるスライド資料の一部を試験的に公開してみます。Slideshareから資料をダウンロードすることも可能です。評判が良ければ公開対象を拡大していきたいと思います。

・低コストで欧州特許を取得するには
・欧州向けクレームドラフト

・欧州で気を付けるべき補正の形態

・欧州特許庁での異議申立と口頭審理

・ドイツ特許制度の概要

・欧州特許庁における審判手続



先日の記事「ドイツの裁判所によるクレーム解釈の原則」で明細書で開示された発明の実施形態は原則保護範囲に属するということを説明しました。この考えが分かりやすく表れたドイツ最高裁(Bundesgerichtshof、略してBGH)の判決(事件名:Kreuzgestänge、ケース番号:X ZR 103/13)を紹介します。


1.  クレーム1:
Kreuz3

・・・・・支棒(9)を折りたたむ際、上部バー(2a、2b)下部バー(4a、4b)とが同時に互いに移動する、ことを特徴とする折り畳み可能な押し車。
Zusammenklappbarer Schiebewagen [...] gekennzeichnet durch: [...] dass [...] beim Zusammenlegen des Spreizgestänges (9) die oberen und unteren Holme (4a, 4b) gleichzeitig aufeinander zu verschwenken.


2.  明細書の記載:
2.1. 図面を用いた説明:
上部バーおよび下部バーとの両方が移動に関与るす形態を開示
Kreuz1
2.2.その他の記載:
一方、下部バーが移動不可能に配置され、上部バーのみが下部バーに対して相対的的に移動可能であってもよい。
Es ist aber auch möglich, dass die unteren Holme nicht verschwenkbar angeordnet sind, sondern dass nur die oberen Holme gegenüber den unteren relativ verschwenkbar sind.


3.  イ号製品:
下部バーが移動に関与しない。
Kreuz2

4.  BGHの判断
4.1. 結論:
イ号製品はクレーム1の構成要件を全て具備する。

4.2. 判決文の抜粋:
明細書中に複数の実施形態が発明として紹介されている場合、クレーム中に用いられた文言の解釈には、疑わしきときにおいては、全ての実施形態が参照される。
"Werden in der Beschreibung eines Patents mehrere Ausführungsbeispiele als erfindungsgemäß vorgestellt, sind die im Patentanspruch verwendeten Begriffe im Zweifel so zu verstehen, dass sämtliche Beispiele zu ihrer Ausfül-lung herangezogen werden können."

特許は下側ではなく上部バーのみを下部バーに対して移動可能に配置して、上部バーが下部バー対してほぼ平行になるように折り畳まれた位置から、キャリッジフレームが開かれる斜めの位置に移動する可能性についても言及している。これは、クレーム1で規定されている同時移動に必ずしも下部バーと上部バーとの両方が関与する必要はなく、4つの全てのバーの同時の相対移動があれば十分であるという結論を正当化する。
"Anschließend wird aber auch die Möglichkeit erwähnt, nicht die unteren, sondern nur die oberen gegenüber den unteren Holmen in einer Weise verschwenkbar anzuordnen, dass diese aus einer zusammengeklappten Posi-tion, in der sie nahezu parallel zu den unteren Holmen verlaufen, in eine Schrägposi-tion verbracht werden, in der das Wagengestell aufgestellt ist (Abs. 7, Z. 34 bis 41). Dies rechtfertigt den Schluss, dass an dem in Merkmal 6.3.3 vorgesehenen gleich-zeitigen Aufeinanderzuverschwenken nicht zwingend sowohl die unteren als auch die oberen Gestellholme beteiligt sein müssen, sondern dass es ausreichend ist, wenn es zu einer gleichzeitigen Relativbewegung aller vier Holme komme."


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