徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2018年07月

この度、PA会主催の研修で私長谷川が講師を務めさせて頂くことになりました。 研修の日程および概要は以下の通りです。  

・演題: 「欧州への特許出願戦略とクレームドラフト」  
・日時: 2018年8月24日(金) 18:45~20:45  
・会場: 弁理士会館2階AB合同会議室 

受講者の皆様にとって有意義な情報および時間を提供できるよう努めますので、欧州における権利化業務にご興味のある方は是非ともご参加下さい。


以前の記事でドイツの職務発明制度ではドイツの従業者発明法に基づき使用者に多くの義務が課せられているものの、実際は使用者が従業者から従業者発明法(13条、14条および16条)に基づく権利を買い取ることでこの義務が免除される旨を説明しました。

ここで気になるのがこの権利の買取りの相場がいくらであるかです。

少し古いのですがその相場の参考になるのが2004年にドイツ連邦産業連盟(BDI)およびドイツ使用者連盟(BDA)に対してなされた従業員発明の報酬に関するアンケート結果です。このアンケートでは権利買取りの相場についても触れられています。

そのアンケートの結果では権利買取りの値段は以下のようになっています。

(1)従業者発明法第14条および16条の権利買取りの値段
従業者発明法第14条(外国出願の権利の譲渡提案義務)および16条(国内出願権利の譲渡提案義務)の権利のみの買取りを行っている企業では、権利の買取の平均買取金額は320ユーロでした。買取金額は最高で1000ユーロで、多くの場合100~600ユーロ内に収まりました。

(2)従業者発明法第13条、14条および16条の権利買取りの値段
上述の従業者発明法第14条および16条の権利に加えて、従業者発明法第13条(国内出願義務)の権利の買取りを行っている企業では、平均買取金額は430ユーロでした。買取金額は最高で1000ユーロ、最低で50ユーロで、多くの場合150~600ユーロ内に収まりました。

結論

現在では上述のケース(2)のように従業者発明法第14条および16条だけではなく13条の権利も買い取るのが主流と思います。また個人的な感覚では権利買取りの現在の平均価格は2004年よりも10~20%ほど高くなっています。

つまり現在の従業者からの権利の買取りの相場は500ユーロ程度になると思われます。

注意すべき点は、この権利の買取りの対価はドイツ従業者発明法第9条で定められた職務発明の対価とは別物であるということです。したがって権利の買取りとは別に職務発明の対価として従業者に適切な額を支払う必要があります。

参考資料:
・Novellierung des ArbEG – Keine Ende in Sicht: Die. Industrie reagiert mit Incentive-Systemen in: Einsele, R. W., Franke, E. R. (2005). Festschrift 50 Jahre VPP
ドイツ従業員発明法(日本語)


私の勤務先であるWinter Brandl et al.特許法律事務所は、以下の内容で技術スタッフをゆる~く募集しています。

主な業務内容:
欧州特許庁およびドイツ特許庁での権利化作業および日本顧客対応

求める人材:
・機械・電気・情報系の修士号または博士号をお持ちの方(取得見込の方も是非ともご応募ください)
・日本語が母国語または母国語レベルの方
・英語で意思疎通ができる方
・ドイツ語を学ぶ意志がある方
・欧州特許弁理士およびドイツ弁理士としてのキャリアに興味のある方

勤務地:弊所ミュンヘン支部またはフライジング本部

給与:応相談

応募方法:以下のメールアドレスに英語またはドイツ語の履歴書をご送付下さい。

karriere@wbetal.de

皆様の応募を心よりお待ちしております。

もしタイミングが合えば私の日本滞在中にドイツでの就職について相談に乗ることも可能です。「応募してみたいけど色々不安だ」などとお悩みの方がいらっしゃいましたらお気軽にご連絡下さい。





過去の記事でも触れましましたがドイツの実用新案は日本のそれと比較して権利行使がしやすかったり、保護対象が広かったりとかなり使い勝手がよいです。今回はその実用新案がドイツでよく活用される場面3つを紹介します。


1.特許出願の審査係属中に権利行使をしたいとき

無審査で登録されるドイツの実用新案は出願すれば2ヶ月程度で登録になり、権利行使が可能になります。このため欧州特許出願またはドイツ特許出願の審査中に潜在的侵害者を発見した場合などに、審査中の特許出願からドイツ実用新案を分岐(ドイツ実用新案法5条(1))させ、権利行使をするという手法が用いられます。この手法では通常1の特許出願からイ号を含むようにデザインされた実用新案を3つも4つも分岐させ、それぞれの実用新案権に基づいて権利行使がなされます。

権利行使される側としては、複数の権利に基づいて権利行使がなされ、さらに元の特許出願はまだ係属中という戦意が削がれる状況に追い込まれます。このため権利者としては交渉を有利に進めることができます。


2.自ら新規性を喪失してしまったとき

日本と異なり欧州およびドイツでは「意に反する公知(EPC55条(1)(a))」または「特定の国際博覧会で公知(EPC55条(1)(b))」の場合にのみしか新規性喪失の例外の適用が認められません。したがって、例えば優先日前に日本で特許を受ける権利を有する者の論文発表によって公知になった発明は、欧州およびドイツでは「新規性喪失の例外」の要件を満たすことができず、欧州特許またはドイツ特許として権利化することはできません。

しかしドイツの実用新案制度では、6月のグレースピリオドが認められています(ドイツ実用新案法3条(1))。したがって上述のように論文発表によって公知になった場合であっても優先日から6月以内であれば実用新案として権利化が可能です。


3.特許が異議で取り消されそうになったとき

実用新案の分岐は欧州特許またはドイツ特許が異議に係属中にもすることができます(ドイツ実用新案法5条(1))。またドイツの実用新案制度では口頭発表やドイツ以外での公然実施が先行技術となりません(ドイツ実用新案法3条(1))。

このため例えば欧州特許が日本での公然実施を理由に異議手続で取消されそうになった場合は、ドイツの実用新案を分岐することで有効な権利を確保するこが可能です。




ドイツでは日本語でドイツ特許出願した場合や日本語でなされたPCT出願をドイツに移行した場合は、原文の日本語書面に基づいて誤訳訂正ができます。しかしながらドイツ特許法には出願当初の開示範囲を超えないことを条件に補正を認める条文(ドイツ特許法38条)はあるものの日本特許法17条の2第2項のような誤訳訂正を規定した条文はありません。このため本当に誤訳訂正ができるのかが不安になります。

しかしドイツで誤訳訂正ができることはドイツ特許法38条から読み取れます。

ドイツ特許法38条の第1文は以下のようになっています。

「特許を付与すべき旨の決定が行われるときまでは、出願の内容は、出願の対象の範囲を拡大しないことを条件として、補正することができる(Bis zum Beschluß über die Erteilung des Patents sind Änderungen der in der Anmeldung enthaltenen Angaben, die den Gegenstand der Anmeldung nicht erweitern, zulässig)」

ここで注目すべきなのが上記下線部で強調された「出願の対象(Gegenstand der Anmeldung)」という用語です。

ここで用いられる「出願」という用語の解釈がBLPMZ(Blatt für Patent-, Muster- und Zeichenwesen ドイツ特許庁による月報)およびSchulteになされています。より具体的には原文がドイツ語以外の出願の場合は「開示内容はドイツ語翻訳ではなく元の言語における出願に従う(Offenbarungsgehalt richtet sich nach der Anmeldung in der Originalsprache und nicht nach der Übersetzung)」と記載されています(BLPMZ 98, page 403; Schulte 9th edition, page 920, para 25)。

さらにドイツの国際特許条約に関する法律(InPatÜG)では、PCT出願がドイツ語以外で提出された場合は、移行時に「出願の翻訳(eine Übersetzung der Anmeldung)」を提出すべき旨が規定されています(Art. III § 4 (2) InPatÜG)。

つまりドイツ語以外の言語でなされた直接出願またはPCT出願の場合、ドイツ特許法38条における「出願」とはドイツ語翻訳文ではなく、元の言語でなされた原出願を意味します。

すなわちドイツ特許法38条の第1文は

「特許を付与すべき旨の決定が行われるときまでは、出願の内容は、元の言語でなされた原出願の対象の範囲を拡大しないことを条件として、補正することができる」

と読むことができます。

したがって例えば原文が日本語である日本語ドイツ特許出願や日本語PCT出願のドイツ移行案件の場合は、ドイツ特許法38条に基づいて日本語の原文に基づいて補正ができる、つまり誤訳訂正もできると言えます。


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