徒然なるままに欧州・ドイツ特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州・ドイツ特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2018年04月

2015年、2016年および2017年に決定がなされた欧州特許庁での異議申立の件数順に、特許権者の代理人をランク付けしてみました。

調査に用いたツール: EP Bulletin Search

データベース:BULL2018/15

元データの検索式:
(PCRV=2017* or PCRV=2016* or PCRV=2015*) or (PCPA=2017* or PCPA=2016* or PCPA=2015*) or (OPRD=2017* or OPRD=2016* or OPRD=2015*)

各欄の説明:
 Patentee's Representative:異議における特許権者の代理人
 Total:
2015年、2016年および2017年に異議部によって下された特許取消決定、補正維持決定および異議却下決定の件数の和

結果:
Opposition repesentative PR

注意:
EP Bulletin Searchからの元データには、代理人名が「A,B & C」や「A, B and C」などと統一されていない場合がありました。本ランキングでは利便性向上のため同じ代理人である可能性が高い代理人名を集約していますが誤りがある場合を否めませんので予めご了承下さい。

日本の基礎出願はX社(自社)とY社(他社)との共願で行ったが、Y社は外国での権利化に興味がないので外国出願は自社のX社だけで行いたいという状況はよくあります。

この場合:

(1)外国出願前にY社がX社に外国出願に関する権利または優先権を譲渡し、最初からX社を単独の出願人として外国出願をする方法
(2)まずはX社とY社で共願で外国出願をして、出願後にY社がX社に持ち分の権利を譲渡し、X社を単独の出願人とする方法

の2つの出願方法があります。

日本企業はほとんどの場合(1)の最初からX社を単独の出願人として外国出願をする方法を選択しますが、この(1)の方法は欧州およびドイツでは(2)の方法と比較してリスクが大きいためお勧めしません。

まず(1)の出願前に権利譲渡をする方法ですと審査または異議過程で欧州特許出願前の権利譲渡を証明できなかった場合、先の出願(基礎日本出願)の出願人と後の出願(欧州またはドイツ出願)の出願人とが同一でないとして優先権喪失する事態を招くことがあります(EPC87条)。この場合問題発覚後、つまり欧州特許出願後に作成した権利譲渡書を提出したとしても優先権喪失を治癒することができません(T62/05、BpatGE 52, 207)。

 一方で(2)の出願後に権利譲渡をする方法では、仮に権利譲渡手続きに瑕疵があったとしても優先権自体に問題はありません。また瑕疵発覚後に改めて権利譲渡書を作成して提出すれば問題なくその瑕疵を解消することができます。

すなわち(1)のパターンは修復不可能な形で優先権喪失するリスクをはらみまが、(2)のパターンにはそのようなリスクはありません。特に日本ではなぜか外国出願前の権利譲渡が曖昧な形でなされることが多いため(1)のパターンのリスクは無視できません。

このため基礎日本出願よりも出願人を減らして欧州およびドイツで出願したい場合は、上述した欧州またはドイツ出願後に権利を譲渡する(2)の方法をお勧めします。



今年から無料になった欧州特許庁の検索ツールであるEP Bulletin Searchを使って色々と遊んでいます。今回は代理人の拠点国によって欧州特許庁における異議の結果に差があるかを調べてみました。


I. 方法

調査に用いたツール: EP Bulletin Search

データベース:BULL2018/15

調査対象年:2017年

調査対象の代理人の拠点国:ドイツ、イギリスおよびフランス

検索式:
 特許取消(Patent revoked)決定:PCRV=2017*
 補正維持(Patent maintained as amended)決定:PCPA=2017*
 異議却下(Opposition rejected)決定:OPRD=2017*
 特許権者側代理人の国別特許取消決定:PCRV=2017*and RECY=DE(GBまたはFR)
 特許権者側代理人の国別補正維持決定:PCPA=2017*and RECY=DE(GBまたはFR)
 特許権者側代理人の国別異議却下決定:OPRD=2017*and RECY=DE(GBまたはFR)
 異議申立人側代理人の国別特許取消決定:PCRV=2017*and OPCY=DE(GBまたはFR)
 異議申立人側代理人の国別補正維持決定:PCPA=2017*and OPCY=DE(GBまたはFR)
 異議申立人側代理人の国別異議却下決定:OPRD=2017*and OPCY=DE(GBまたはFR)


II. 結果

1.特許権者の代理人の拠点国別異議の結果
特許を防御する立場にある代理人の拠点国別の異議結果の比率です。
Averageは2017年の異議部の全決定の比率です(注意)。

グラフ1
OP_Diffence

2.異議申立人の代理人の拠点国別異議の結果
特許を攻撃する立場にある代理人の拠点国別の異議結果の比率です。

グラフ2
OP-Attack
III. 考察

異議の結果は特許権者によって準備される証拠や情報によって大きく影響されるので代理人の腕のみに起因するとは言えませんが、上記結果は拠点国によって代理人の異議のパフォーマンスに差がある可能性を示唆します。

例えば異議において代理人が特許権者の代理をする場合、すなわち代理人が特許を防御する立場にあるときには、特許取消率が低く、異議却下率(特許が補正なしで維持される確率)が高いことが代理人の防御パフォーマンスが高いことを示唆します。上記グラフ1からも分かるように代理人が異議において特許を防御する立場にあるときには、調査対象国の中ではドイツ代理人の特許取消率が最も低く(31%)かつ異議の却下率が最も高い(24%)という結果になりました。この結果は、踏査対象国の中ではドイツ代理人の防御パフォーマンスが最も高いことを示唆します。

一方、異議において代理人が異議申立人の代理をする場合、すなわち代理人が特許を攻撃する立場にあるときは、特許取消率が高く、異議の却下率が低ければ攻撃パフォーマンスが高いと言えます。上記グラフ2からも分かるように代理人が異議において特許を攻撃する立場にあるときには、調査対象国の中ではイギリス代理人の特許取消率が最も高く(44%)かつ異議却下率が最も低い(17%)という結果になりました。この結果は、踏査対象国の中ではイギリス代理人の攻撃パフォーマンスが最も高いことを示唆します。

代理人の拠点国によって異議の結果によって差があることはどの国の代理人に依頼をすべきかの観点から非常に興味深いことだと思います。さらに踏み込んで代理人別の異議の結果についても調べてみたいと思います(ただこれは少々生々しいデータになるので公開できるかは分かりませんが。。。)


注意 :
グラフ1および2のAverageの数値は本来であれば欧州特許庁発行の2017年のアニュアルレポートで開示された数値と一致すべきなのですが両者の間には剥離があります。色々と調べてみたところどうやらEP Bulletin Searchでは異議の決定後、Appealに移行・係属中のケースの異議の決定が無かったもととして取り扱われることが原因と考えられます。どなたかEP Bulletin Search でAppealに係属中のケースの異議部の決定の結果を調べる手法をご存じの方がいらっしゃいましたらご教示ください。


ある国における特許権者の攻撃性(侵害訴訟を提起する可能性)はその国でビジネスを行う際のリスクに密接に関連するため気になります。この攻撃性はその国の特許侵害訴訟の件数からぼんやり推し量られているのが現状かと思います。しかしながら特許侵害訴訟の件数からだけでは特許権者の攻撃性はわかりません。例えば現存特許が1000件しかないのにも関わらず年間100件の特許侵害訴訟が提起される国における特許権者は、現存特許が100万件で年間1000件の特許侵害訴訟を抱える国における特許権者よりもより攻撃的であると言えるからです。

そこで国別の2012年の現存特許および特許侵害訴訟の件数に基づいてどの国において特許権者が攻撃的かを攻撃性インデックスなる指標を用いて調べてみました。


I.対象国

The Global IP Project の2015年の資料(Significant-Trends-Slides-25-Jan-2015.pdf)で紹介された特許侵害訴訟がアクティブな国ベスト10(中国、米国、ドイツ、フランス、イタリア、日本、インド、台湾、イギリス、カナダ)を対象としました。


II.参照データ

2012年の特許侵害訴訟の件数:
The Global IP Project の資料で開示された2010年~2012年の特許侵害訴訟の件数を3で割った数を2012年の特許侵害訴訟の件数としました。

2012年の現存特許の件数:
中国、米国、ドイツ、フランス、イタリア、日本、インド、イギリス、カナダについてはWIPO公表の2012年の現存特許の件数(http://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/country_profile/)を参照しました。台湾については台湾特許庁発行の統計データ(https://www.tipo.gov.tw/ct.asp?xItem=640384&ctNode=6830&mp=2)を参照しました。


III. 計算方法


攻撃性インデックス=2012年の特許侵害訴訟の件数/2012年の現存特許の件数


IV. 結果

結果を以下のテーブルおよびグラフに示します。
テーブル:
aggresive_table
グラフ:
aggresive graph

V. 考察

攻撃性インデックスが高いほどその国において特許権者が攻撃的であることを示唆します。中国、インド、ドイツで高くて日本で低いことは何となく予測できましたが、イタリアが思いのほか高いことに驚きました。これら攻撃性インデックスが高い国では特許侵害訴訟に巻き込まれるリスクが高いため、これらの国にビジネスの拠点がある場合または競合他社がいる場合にはカウンター用に特許を保持しておくことが好ましいと言えます。

1.デュッセルドルフ地裁およびマンハイム地裁:
Proceedings_DUC
2.ミュンヘン地裁:
Proceedings_MUC





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