徒然なるままに欧州・ドイツ特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州・ドイツ特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2017年09月

Infrigement court fee

備考:


「弁護士費用」および「弁理士費用」はドイツ弁護士報酬法に基づいて算出されたものです。

「費用リスク」とは敗訴した場合に負担すべき金額です。
ドイツでは敗訴した者は:
裁判所費用+ドイツ弁護士報酬法に基づく相手側の弁護士・弁理士費用+自己の弁護士・弁理士費用
を負担しなければなりません。



1. 独立クレームに無駄な特徴が含まれていないか?

 欧州特許庁では独立クレームの特徴を削除することは極めて困難です。例えば独立クレームが「A+B+C」という特徴を有していた場合、ここから特徴「C」を削除することは、例えば明細書に「Cは必須の特徴ではない」ぐらいの記載がないと認められません(ガイドラインH-V, 3.1)。独立クレームの特徴についてわざわざ明細書に「必須の特徴ではない」と記載することは極めて稀ですので、実際は独立クレームの特徴を削除することは不可能と考えておくべきです。

また分割出願でも同様の基準が適用されます。したがって出願時の独立クレームよりも広い範囲で権利化することは欧州特許庁では実質不可能です

このため欧州特許出願時またはPCT出願時に独立クレームの特徴が課題を解決するための最低限となっているかを検討し、課題の解決に必須でない特徴、事業に必要のない特徴は徹底的に省くをことお勧めします。


2. 1カテゴリー・1独立クレームとなっているか?

欧州特許庁ではEPC規則43条(2)の規定により原則1つカテゴリー(物、方法、使用)について1つの独立クレームしか許可されません。この1カテゴリー・1独立クレーム違反している場合は調査報告発行前にどの独立クレームを調査対象として選択するかを問うOAが発行され(EPC規則62a条(1))、選択しなかった独立クレームについては原則分割をしなければ権利化できません(EPC規則62a条(2))。このため1カテゴリー・1独立クレームに違反してしまうと権利化手続きが著しく非効率になります。

一方で私の経験上、1カテゴリー・1独立クレームに違反していても、出願時に複数の独立クレームを上位概念化した1つの総括独立クレームを作成することが可能だった場合がほとんどです。

したがって欧州特許出願時またはPCT出願時には無理してでも1カテゴリー・1独立クレームとすることをお勧めします。

なお「回路」と「その回路を含む装置」のように前のクレームの構成を全て含む形の独立クレームは1カテゴリー・1独立クレームの原則には違反しません(ガイドラインF-IV, 3.2)。

また欧州特許出願時またはPCT出願後に複数の独立クレームを上位概念化した1つの総括独立クレームを追加する補正は欧州特許庁では通常新規事項の追加に該当し許可されません。


 3. 従属クレームはマルチ従属クレームとなっているか?

 新規事項の追加の判断が厳しい欧州では単従属クレーム同士の組合せであっても新規事項の追加と判断される場合がります。

例えば  
  クレーム1:A
  クレーム2(クレーム1のみに従属):A+B
  クレーム3(クレーム1のみに従属):A+C
という場合にクレーム2および3をサポートとして
  クレーム1:A+B+C
という補正をする場合は、当初クレームにはA+B+Cの組合せが開示されていないので新規事項の追加と判断されるリスクがあります。

 しかしこの問題は最初からクレーム3をマルチ従属クレームにしておけば防げていたことになりますので、欧州特許出願時またはPCT出願時に従属クレームを技術的な矛盾が発生しない範囲でできるだけマルチ従属クレームとすることで補正の自由度を向上させることができます。さらに欧州ではマルチクレームに追加費用は発生せず、マルチのマルチも問題ありません。

なお欧州特許出願またはPCT出願後に単従属クレームをマルチ従属クレームに変更することは上記例と同様の理由で新規事項の追加と判断されるリスクがあります。


4. 従属クレームの数に過不足は無いか?

欧州特許庁の調査部門は独立クレームおよび従属クレームの特徴を調査することが義務付けられています(ガイドラインB-III, 3.7)。一方で明細書のみに記載されされている特徴については調査することが義務付けられていません(T1679/10)。

このため例えば出願が1つの独立クレームしか含まない場合は:   

  第1OAで文献1が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Aを追加して文献1に対して新規性を確保
  ↓
   第2OAで文献2が引用され新規性が否定される
  ↓
   明細書から特徴Bを追加して文献2に対して新規性を確保
  ↓
   第3OAで文献3が引用され新規性が否定される
  ↓
   明細書から特徴Cを追加して文献3に対して新規性を確保
   ↓
   第4OAでようやく特許性が認められる

というように引用文献が小出しにされ権利化手続が極めて非経済的になる恐れがあります。 一方、上記例で特徴A、BおよびCに関する従属クレームを予め出願時に準備しておけば最初のOAで審査官が特徴Cに関して特許性を認めることを確認できます。このため調査してほしい特徴は予め従属クレームに明記しておくことをお勧めします。

他方でクレーム数が16以上になると1クレームごとに235ユーロの追加費用が発生してしまいますので、コストパフォーマンスの観点からクレームの数は15以内に抑えることが好ましいです。


5. 明細書を参照しなくとも明確なクレームとなっているか?


日本での審査と異なり欧州特許庁での審査ではクレーム中の用語の解釈に明細書は参照されず、クレームのみ記載でクレーム中の用語が不明確な場合は、クレームのみの記載で意味が明瞭になるよう、クレームの補正が求められます(EPO GL F-IV, 4.2)。同様に新規性の判断でもクレームの解釈のために明細書が参照されません。

このため明細書中の定義がなければ不明確な用語をクレームに追加することは予め避けておいた方が好ましいです。


6. クレームの各特徴に附番は付したか?

欧州特許庁ではEPC規則43条(7)の規定によりクレーム内の各特徴の後には括弧に入れられた対応する図面内の符号を挿入ことが好ましいとされています。しかし特に機械系の発明では8割以上の確率で審査官によりクレーム内に符号を挿入することが求められます。このため予め依頼時に符号が挿入されたクレームを用意しておくことが好ましいです。

 また依頼時に符号が挿入されたクレームが欧州代理人の手元にあれば、図面とクレームとを対比するだけで短時間で大まかに発明を把握することができるので、その後のOA対応の際の代理人の作業時間を減らす効果も見込まれます。

ちなみに複数の実施形態が存在し、1つの特徴の対して複数の符号が存在する場合は、最も重要な実施形態(通常は第1実施形態)の符号をクレームに挿入するだけで足ります(ガイドラインF-IV, 4.19)。また符号はクレームを限定するとは解釈されません(EPC規則43条(7))。


まとめ

上記6点を守れば欧州特許庁での権利化業務をかなりスムーズにすることができます。さらに優先権確保の観点からは、1、2および3の項目は基礎出願の作成時、すなわち日本出願のドラフト時にも留意することをお勧めします


私が欧州特許弁理士本試験(EQE)D部用に作成した欧州特許条約の条文ごとに論点をまとめたレジュメを公開します。自分用メモとして作成したので第三者からは分かりにくい箇所もあると思いますが2015年までのD部の過去問における論点はほぼ網羅してあると思います。

http://blog.livedoor.jp/hasenfus/D.doc

ただ私の経験では実際のD部の試験では当該レジュメは不十分と感じたので、ガイドライン等を読み込み論点になりそうな内容をさらに追加することをお勧めします。

EQE受験生の方々のお役に立てれば幸いです。
ただし内容は無保証です。ご利用は自己責任でお願いします。

ドイツには欧州特許庁において悪名高い「Inescapable Trap」を一定条件の下に回避することができる「Footnote Solution」という逃げ道が容易されています(Inescapable trapってなに?Footnote Solutionってなに?という方はNGB社の当該記事に分かりやすく説明されていますのでご参照下さい)。

このドイツにおける「Footnote Solution」という言葉は有名ですが、実際に「Footnote」が付されたクレームを見たことがある方はほとんどいないと思います。私もこれまで見たことがありませんでした。実際に裁判で「Footnote Solution」が論点となった特許を検索しても、なぜかこの「Footnote 」が付された公報が公開されていないからです。

この度この「Footnote Solution」について調べる機会があったので、色々なデータベースを駆使して調べてみたところ、ついに「Footnote」が付されたクレームにたどり着くことができました。

具体的には以下に示すDE102004029735 (C5)のクレーム1です。以下の黄色でマークした2ヵ所が「Footnote」に該当します。

1. Verfahren zur Messung optischer Oberflächen innerhalb einer mehrlinsigen Anordnung mit einem lichtabgebenden und lichtempfangenden Messkopf mit:
– einem Aufstrahlen eines auf einen Teilbereich der zu untersuchenden Linsenoberfläche fallenden von der Linsenoberfläche wenigstens in geringem Maße reflektierten Lichtbündels unter Drehung eines Prüflings über wenigstens ein definiertes Kreissegment,
– Erfassen der zurückgeworfenen Strahlungsenergie auf einem zweidimensionalen Sensor unter ortsaufgelöster Abspeicherung der gemessenen Werte,
– Errechnen eines Justierfehlers für die jeweils untersuchte Fläche, unter Berücksichtigung von zuvor bestimmten Lagekoordinaten davor liegender Linsen (Das Merkmal ”unter Berücksichtigung von zuvor bestimmten Lagekoordinaten davor liegender Linsen” im Anspruch 1 stellt eine unzulässige Erweiterung dar, aus der Rechte nicht hergeleitet werden können.), dadurch gekennzeichnet, dass
– die Drehung eines Prüflings, einer bereits bestehenden mehrlinsigen Anordnung, um eine hochpräzise Drehachse, die Bezugsachse, erfolgt,
– das Aufstrahlen von jeder Seite bei einem mehrlinsigen Prüfling erfolgt,
– wobei eine Fokussierung des Einstrahllichts auf dem Krümmungsmittelpunkt einer im Inneren einer mehrlinsigen Anordnung befindlichen Linsenfläche mit einem Autokollimator oder einem optischen Winkelmessystem unter Beachtung der abbildenden Eigenschaften einer oder mehrerer zuvor durchlaufender Linsen erfolgt,
– das Erfassen für je ein Lichtbündel auf jeder Seite erfolgt,
– das Errechnen eines Justierfehlers für die jeweils untersuchte Fläche unter rechnerischer Berücksichtigung der abbildenden Eigenschaften und der Justierfehler vorgelagerter Linsen (Das Merkmal ”der Justierfehler vorgelagerter Linsen” im Anspruch 1 stellt eine unzulässige Erweiterung dar, aus der Rechte nicht hergeleitet werden können.) erfolgt, die von Einstrahllicht und zurückgeworfenem Licht passiert werden, wobei durch einen kleinen Überlapp in der Mitte des Prüflings Flächen von beiden Seiten vermessen und die Messergebnisse von beiden Seiten rechnerisch zusammengesetzt werden.

例として最初の「Footnote」の部分の日本語訳は以下の通りです。

「”unter Berücksichtigung von zuvor bestimmten Lagekoordinaten davor liegender Linsen”という特徴は許可されない拡張を構成し、この特徴からは権利を導き出すことは出来ない。」

2010年以降の判決では「Footnote」を敢えて明示しなくとも「Inescapable Trap」を回避できるとされていますので(BPatGE 31, 1, 4; 109)、「Footnote 」が付されたクレームを見る機会は今後はもっと減ると思います。

このため「Footnote 」が見られるDE102004029735 (C5)のクレーム1は大変貴重と言えます。

ドイツは特許侵害の争いの場になることが多いため、他社のドイツ特許出願の調査には一定の需要があります。しかしドイツ特許庁が提供するオンラインデータベースはコマンドが複雑であったりとあまり使い勝手がよくありません。

一方でドイツ特許出願のデータは使い勝手の良い欧州特許庁のEspacenetにも蓄積されています。このためEspacenetを利用すれば手軽に他社のドイツ特許出願を調査することができます。

以下に例として2017年に公開されたSiemens社のドイツ特許出願のリストを入手する方法について説明します。


ステップ1:
EspacenetのSmart Search(https://worldwide.espacenet.com/)にアクセスし、検索式の欄に

「pa = siemens and pn = DE and pd = 2017」

と入力し、Searchボタンをクリックします。
DE Search 1



ステップ2:
すると以下のようなSiemens社の2017年に公開された特許出願のリストが得られます。
DE Search 2


ステップ3:
そして気になる出願は赤色でマークされた「patenttranslate」をクリックすることで。。。
DE Search 3



ステップ4:
要約の機械翻訳による英訳が得られます。
DE Search 4



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