徒然なるままに欧州・ドイツ特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州・ドイツ特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2017年05月

欧州代理人を選択する上で代理人費用は極めて重要な事項であると思います。このため欧州代理人を選択するにあたってはいくつかの事務所から料金表を取り寄せ、各事務所の費用を比較するのが通常だと思います。

しかしながら各事務所の料金表をいうものは標準化されているわけではありません。例えばある事務所の出願費用には優先権主張手続きも含まれているが、他の事務所では優先権主張手続きが別途請求されるといったことが多々あります。

また出願段階の費用は低く抑え、低く抑えた分をOA対応時または特許査定時に回収する戦略を取る事務所もありますので、出願時の費用が安いからといって、登録までの費用が安くなるとは限りません。

そこで欧州代理人の費用を効率的に比較するために、例として欧州特許出願の出願から登録までに想定される各手続きを項目分けした以下のようなシートを作成してみました。

Table_for_fee_comparison

エクセルファイスもご自由にご利用下さい。
http://blog.livedoor.jp/hasenfus/Table_for_fee_comparison.xls

当該シートを取引を検討している欧州代理人に記載してもらえば、どの手続きにどれだけの代理人費用がかかるかが明確に分かりますし、OA対応時の費用を記載してもらうことで登録まで大体いくらぐらいかかるかを見積もることができます。このため出願から登録までの欧州代理人の費用を効率的に比較することができます。

色々と紆余曲折はあったものの欧州単一特許制度は2017年の12月ごろには発効するであろうと言われています

欧州単一特許制度が発効した後は、欧州特許庁での特許査定後に特許権者は、各移行国の特許の束であるこれまでの欧州特許か、EU25ヶ国内で一括して有効な欧州単一効特許(Unitary Patent)かを選択することができるようになります。

ここで問題になるのが一体どのような判断基準で通常の欧州特許にするか、欧州単一効特許にするかを選択すべきかということです。

まずは欧州単一効特許のメリット、デメリットを考えてみます。

欧州単一効特許のメリットとされているのがコストです。欧州単一効特許は、通常の欧州特許をEU25ヶ国に移行することと比較してコストを80%も削減することができると言われています。すなわち移行したい国が多いほどコスト削減のメリットを享受することができます。

一方で欧州単一効特許のデメリットとされているのがEU25ヶ国という広範囲に効力を有する特許が一発で取消になるセントラルアタックのリスクです。このセントラルアタックのリスクは特許の価値(例えば1つの特許による売上)が高くなればなるほど顕著になります。

そこで横軸に移行したい国の数、縦軸に特許の価値をとった以下のチャートを基にどのような特許が欧州単一効特許に適しているか考えてみました。

UP_Chart

まず、移行したい国が少ない特許はそもそもコスト上のメリットがないので、欧州単一効特許を選択するメリットがありません。このため第1群、第2群の特許は欧州単一効特許に適していません。

一方で、移行したい国が多く、特許の価値が高い第3群の特許の場合は、確かにコスト上のメリットはあるもののセントラルアタックのリスクが高すぎ、メリットとのバランスが取れていません。例えば第3群特許の代表例である医薬品特許の場合は、特許による1日の売り上げが1億円を超える場合があるので、欧州単一効特許を選択することによって得られるコストのメリットなど誤差程度にしかなりません。このため第3群の特許も欧州単一効特許に適していません。

唯一、移行したい国が多く、特許の価値が低い第4群の特許でのみコストのメリットとセントラルアタックのリスクとのバランスが取れると思います。

結論:
欧州単一効特許は移行したい国が多く、価値が比較的低い特許に適していると思われます。

ただ欧州単一効特許の取消訴訟および侵害訴訟を管轄する統一特許裁判所(Unified Patent Court)がものすごいプロパテントで、取消訴訟での特許無効率がものすごく低く、侵害訴訟での権利者勝訴率がものすごい高かった場合は事情が変わってきます。ですので制度の今後の進展を見守りたいです。



Q. ドイツ語が話せなくとも大丈夫ですか?
A. 英語でコミュニケーションが取れればとりあえず大丈夫です。ただドイツの事務所では従業員同士の会話は必然的にドイツ語でなされますので、ドイツ語が出来た方が同僚と仲良くなりやすく、入ってくる情報も圧倒的に多くなります。長期的に働きたい場合はドイツ語の習得は必須であると考えたほうがよいと思います。

Q. 日本での実務経験は必要ですか?
A. あれば有利だと思います。

Q. 文系でもドイツの特許事務所に就職できますか?
A. パラリーガル枠またはマーケティング専門枠でもよいというのであれば可能かと思います。しかし理工系のバックグラウンドがある方と比較して困難になると思われます。

Q. 日本の弁理士資格はあったほうが良いですか?
A. あれば有利だと思います。

Q. 英語・ドイツ語はどうやって勉強したらよいですか?
A. 基礎を一通り勉強した後はひたすら音読およびリスニングをすれば自ずと上達するかと思います。

Q. 就職先を紹介してくれますか?

A. 申し訳ありません。そういったサービスは提供していません。しかし理工系のバックグラウンドがあって英語での意思疎通が可能で、ドイツ語を学ぶ意欲のある方は是非とも弊所Winter Brandl et al.特許法律事務所にアプライしてみて下さい。

Q. どうやって就職先を見つけましたか?
A. こちらの記事をご参照ください。

Q. どんな人が欧州で働くことに適正がありますか?
A. こちらの記事こちらの記事をご参照ください。

Q. 長谷川さんは普段どんな仕事をしていますか?
A. こちらの記事をご参照ください。

Q. ドイツは生活しやすいですか?
A. 人それぞれだと思います。実際に就職をする前に例えば1週間でもよいので試しにドイツで生活してみて自分に合うかどうかを確認してみることをお勧めします。

Q. 差別はありますか?
A. 私自身は外国人であるが故に差別されたと感じたことはありません。しかし差別が酷いと感じる日本人もいるようなので個人の感受性に因るのかもしれません。

Q. ドイツに行って良かった点はなんですか?
A. 家族との時間を確保できる点、仕事での裁量が認められる点、子供の教育にお金が掛からない点、そして医療費が原則無料な点です。

Q. ドイツで生活する上で不便な点はありますか?
A. サービス(特に公共サービス)の質が全体的に悪い点、外での食事があまり美味しくない点、そして予防医療の質が良くない点です。

Q. 何かアドバイスはありますか?
A.  あれこれ考えるよりも試しにドイツで生活してみたり、実際に会社・事務所にアプライしてみたりと行動することをお勧めします。私の意見なんかよりも遥かに有用な知見が得られます。

新規性の判断基準はドイツ特許庁。・裁判所も欧州特許庁もほぼ同じですか、以下の2点においてドイツ特許庁・裁判所は欧州特許庁よりも厳しい判断基準を採用しています。


1.方法における用途限定
ドイツでは、方法クレーム中の用途限定は、一あくまで例示的なものであり、主題を限定するものではないとされています(BGH X ZB 9/09)。このため公知技術と用途が異なっても、工程が同一であれば新規性がなしとされます。一方欧州特許庁は方法における用途限定をステップの1つと解釈するので、公知技術と工程が同じでも用途が異なれば、新規性ありと判断される可能性が高いです。

例:
クレーム発明「ステップA,BおよびCを有するプリント板上の錫または錫-鉛電流電層を溶融するための方法」
引用発明 「ステップA,BおよびCを有する気相はんだ付け方法」

ドイツ:新規性が認められない
欧州:新規性が認められうる


2.公知数値範囲よりも狭い数値範囲
ドイツでは閾値によって定められた綴じられた範囲は、閾値の内にある全てのバリエーション、中間値およびそれらによって導き出される部分範囲を開示するとされています(BGH X ZB 11/90)。このため公知数値範囲よりも狭い数値範囲には一律新規性が認められません。一方で欧州特許庁は、公知数値範囲よりも狭い数値範囲であっても一定要件の下、選択発明としての新規性および進歩性を認めています(ガイドラインG-VI, 8)。

例:
クレーム発明 「化合物Xを7~10wt%含む組成物」
引用発明    「化合物Xを1~20wt%含む組成物」

ドイツ:新規性が認められない
欧州:新規性が認められうる


3.注意点
上記2つの例は、欧州特許庁で審査が通ってもドイツ国内で無効になる恐れがある例です。このため欧州特許の移行国にドイツを含む場合は、欧州特許庁の審査過程で上記2つの例に陥らないよう意識をしたほうがよいです。

ドイツの最高裁判所(Bundesgerichtshof; BGH)によるスキームでは発明の進歩性を判断する際に以下の3つの事項を考慮します(GRUR 2001, 939, 942)。

1)出願または特許の解決手段に到達するには当業者はどのような工程を実行しなければならないか?

2)思考をその方向に向ける動機が当業者にあったか?

3)当業者がそのような思考に基づき出願または特許の解決手段に到達することを具体的に肯定または否定する材料は何か?

欧州特許庁のProblem Solution Approachと比較するとかなり柔軟なアプローチです。欧州特許庁では発明の課題の新規性や引用文献中の逆教唆についての論点は進歩性の判断の際にほどんど考慮されることがありませんが、ドイツ特許庁ではこれらの論点も考慮されているように感じます。



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