徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2017年03月


Erteilungsrate_DPMA_2007-2016

*特許査定率=特許査定件数/審査終了件数(特許査定件数+拒絶査定件数+取下件数)

参考サイト:http://dpma.de/service/veroeffentlichungen/jahresberichte/index.html

先日の記事「欧州代理人費用を減らすためにできること 依頼時編」では代理人費用を減らすために依頼時にできることについて列挙してみました。今回はOA対応時にできることを列挙します。


1.補正のサポートを明示する

補正のサポートを明示することは当たり前のことと思われるかもしれませんが、補正案のみが送られ、補正のサポートに関する説明がない指示書か驚くほど多くあります。

欧州特許庁は補正による新規事項の追加に関してはかなり厳格で、さらに補正の根拠に関する説明を義務付けているため(EPC規則137条(4))、補正のサポートに関する説明がないと、当該補正が適切か否かを検討し、応答書面を作成するのに代理人はかなりの時間を要してしまいます。

このため補正案を送る場合は、必ず補正のサポートに関する説明も添付すべきです。


2.補正案のワードデータも送付する

補正案のワードデータがあればそのまま補正書として庁に提出が可能なので、欧州代理人が補正書の作成に要する時間を削減することができます。

欧州では変更履歴着きの補正書を提出することが求められるので(EPC規則134条(4))、補正の変更履歴を残したワードデータを欧州代理人に送ることが好ましいです。


3.記載要件の指摘については深入りしない

欧州特許庁における記載要件は日本の実務と異なるところも多く、欧州特許庁のガイドラインおよび判例に関する十分な知識そして日々の実務経験による肌感覚がなければなかなか適切な対応をすることが困難です。

一方で日本からの指示書では記載要件の指摘に対する主張が詳細に記載されている場合は、仮にその主張が欧州の実務に照らし合わせて適切でなかった場合であっても、欧州代理人は「何で俺が考えた主張を盛り込まなかったんだ!」と言われることを恐れ、なんとかガイドライン等に矛盾しない形で主張を盛り込むことに腐心します。このため、自らゼロから対応を考えるよりもむしろ時間が掛かってしまうことがあります。

このような理由から記載要件に関する対応は欧州代理人に任せたほうが効率的です。


4.進歩性の議論はコンパクトに

少なくとも審査過程では欧州特許庁では進歩性は厳密に課題解決アプローチという手法に基づき判断されます(ガイドライン G-VII, 5)。

この課題解決アプローチに基づく進歩性の主張のために重要になるのは原則として:
  1.Closest Prior Art(副文献)に対する差異的特徴は何か?
  2.その差異的特徴による技術的効果は何か?
  3.その差異的特徴および技術的効果が副文献に開示されているか?
の3点です。

例えば課題自体の困難性等の上記3点以外の論点はあまり欧州ではあまり重視されません。

このため進歩性の主張に関する指示では上記3点をコンパクトに纏めることがコストパフォーマンスの観点から好ましいです。


5.補正案で迷ったら補請求を検討してみる

欧州ではOAの対応で複数の補正案を提出することが認められます(ガイドラインH-III, 3)。このため複数の補正案のうちどれを採用すべきか迷ったり、またはオリジナルのクレームでチャレンジしてみたいけどダメだったときの落としどころとしての補正案が決まっているときなどは補請求を利用することをお勧めします。

ちなみに補請求を提出した場合、補請求を提出しなかった場合と比較して主請求が通りにくくなることを懸念される方が多いですが主請求のロジックに妥当性があれば、問題なく主請求が認められます。


6.クレームが許可されそうな場合には明細書の補正も指示する

欧州では審査官がクレームを許可可能と判断した後に許可可能なクレームに明細書を適合させるという作業があります(ガイドラインC-V, 4.5)。

効率的な権利化を意識している欧州代理人であれば、審査官がクレームを許可するであろうと判断した際には、審査官からの要求がなくとも自発的に明細書を適合します。

しかし全ての欧州代理人が効率的な権利化を意識しているとは限りません。欧州代理人が自発的に明細書を適合しなければ、明細書の適合のみを求めるさらなるOAが発行されてしまいます。

このため例えばOAでクレームの軽微な誤記のみが指摘されたり、OAにおける審査官の提案に従う場合などは、審査官がクレームを許可する可能性が極めて高いのでクレームの補正だけでなく、明細書の適合を指示することをお勧めします。これにより明細書の適合のみを求めるOAの発行を避けることができます。


この度、日本知的財産協会主催の2017年度の研修「欧州特許制度」の一部で私長谷川が講師を務めさせて頂くことになりました。

研修の日程および概要は以下の通りです。

関東:
JIPA_WE1

関西:
JIPA_WE1_Nishi

より詳細な情報は以下のサイトをご参照ください。

  ・Wグローバルコース群(関東) - 日本知的財産協会
  ・Wグローバルコース群(関西) - 日本知的財産協会

受講者の皆様にとって有意義な情報および時間を提供できるよう努めますので、欧州における権利化業務にご興味のある方は是非ともご参加下さい。




欧州における代理人費用が「hourly rate×欧州代理人の作業時間」と作業時間に依存することを踏まえ、欧州代理人の作業時間を減らすために日本側でできることについて検討してみました。
まずは欧州代理人に出願の依頼をする際にできることを列挙します。


1.簡潔明瞭な英文明細書を準備する

明細書が長いとどうしても発明の把握に時間が掛かり欧州代理人費用が嵩んでしまいます。このため日本語明細書作成段階から、例えば複数の実施形態に共通する特徴を繰り返し記載することを避けたり、明らかに発明に関係のない事項を記載しない等のことに留意し、明細書をコンパクトにすることが好ましいです。

また明細書が短くとも英文が不明確であれば発明の把握に時間が掛かってしまいます。したがって日本語明細書作成段階から、文を短く区切ること、1文内で主語・熟語・目的語を明確にすること、特許用語を乱用しないことなどに気を付け、英訳しやすい明細書を作成することに心掛けることをお勧めします。


2.クレーム内の各特徴の後に符号を付す

欧州ではEPC規則43条(7)の規定によりクレーム内の各特徴の後には括弧に入れられた対応する図面内の符号を挿入ことが好ましいとされています。しかし特に機械系の発明では8割以上の確率で審査官によりクレーム内に符号を挿入することが求められます。このため予め依頼時に符号が挿入されたクレームを用意しておくことが好ましいです。

もちろん符号を挿入する作業を欧州代理人に任せることもできますが、日本からの依頼の場合は欧州代理人が明細書を作成したわけではないので、どうしても符号の確認作業に時間がかかってしまいその分代理人費用が嵩んでしまいます。

また依頼時に符号が挿入されたクレームが欧州代理人の手元にあれば、図面とクレームとを対比するだけで短時間で大まかに発明を把握することができるので、その後のOA対応の際の代理人の作業時間を減らす効果も見込まれます。

ちなみに複数の実施形態が存在し、1つの特徴の対して複数の符号が存在する場合は、最も重要な実施形態(通常は第1実施形態)の符号をクレームに挿入するだけで足ります(ガイドラインF-IV, 4.19)。また符号はクレームを限定するとは解釈されません(EPC規則43条(7))。


3.従属クレームを増やす

欧州特許庁の調査部門は独立クレームおよび従属クレームの特徴を調査することが義務付けられています(ガイドラインB-III, 3.7)。一方で明細書のみに記載されている特徴については調査することが義務付けられていません(T1679/10)。

このため例えば出願が1つの独立クレームしか含まない場合は:

  第1OAで文献1が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Aを追加して文献1に対して新規性を確保
  ↓
  第2OAで文献2が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Bを追加して文献2に対して新規性を確保
  ↓
  第3OAで文献3が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Cを追加して文献3に対して新規性を確保
  ↓
  第4OAでようやく特許性が認められる

と引用文献が小出しにされ権利化手続が極めて非経済的になる恐れがあります。

一方、上記例で特徴A、BおよびCに関する従属クレームを予め出願時に準備しておけば最初のOAで審査官が特徴Cに関して特許性を認めることを確認できます。このため調査してほしい特徴は予め従属クレームに明記しておくことをお勧めします。

一方クレーム数が16以上になると1クレームごとに235ユーロの追加費用が発生してしまいますので、コストパフォーマンスの観点からクレームの数は15以内に抑えることが好ましいです。


4.PCT出願の移行時に明細書の補正を指示しない


PCT出願の移行依頼時に移行と同時に誤記・誤訳等の訂正を目的とした明細書の補正の指示を頂くことがあります。しかし移行時の明細書の補正は以下の2つの理由からお勧めしません。

1つ目の理由は明細書の補正が無駄になる恐れがあるからです。欧州では特許査定の前に補正により審査官により引用された引用文献を明細書に列挙し、補正後のクレームに含まれない実施形態を削除等して明細書をクレームに適合させる作業があります。このためわざわざ移行時に誤記・誤訳を訂正した箇所が適合作業により削除され、移行時の明細書の補正が無駄になる恐れがあります。

2つ目の理由は補正により追加ページ費用が発生する恐れがあるからです。欧州では出願書面のページ数が35ページを超えると1ページごとに15ユーロの追加費用が発生します。そしてこのページ費用は通常国際公開のページ数を基に算出されます。すなわち例えば国際公開された日本語出願書面のページ数が35ページの場合はページ費用は掛かりません(過去の記事「Euro-PCT出願のページ費用(Page Fee)の計算方法」を参照下さい)。

しかし移行時に明細書の補正をすると補正後の英文明細書のページ数を基にページ費用が算出されます。一般的に英文明細書のページ数は日本語明細書のページ数よりも20~30%多くなるので、移行時の明細書の補正により本来は支払う必要のなかったページ費用が発生してしまう恐れがあります。一方、移行後(例えばEPC規則161条の通知の際に指定された期間)に明細書を補正しても追加費用が発生することはありません(ガイドラインA-III, 13.2)。

このため移行と同時の明細書の補正は避けることをお勧めします。もしクレームの解釈に重大な影響を与えうる誤記等がありどうしても審査開始前に明細書の補正が必要な場合には、EPC規則161条の通知の際に指定された期間に明細書の補正を指示することをお勧めします。


5.出願(移行)手続きおよび庁費用納付を自ら行う

以前の記事「代理人を必要としない手続き(欧州)」でも説明しましたが、出願(移行)手続および庁費用の納付手続は欧州代理人経由でなくとも自ら行うことができます。

このため出願(移行)手続および庁費用納付手続を自ら行うことで、当該作業に掛かる欧州代理人費用を削減することができます。

この手法による費用削減効果は絶大ですが、この手法は欧州代理人のパイを直接的に奪う行為としても解釈されかねないので協力してくれる欧州代理人を探すことが難しいかもしれません。




JP-EPO2016


参考サイト:
https://www.epo.org/about-us/annual-reports-statistics/annual-report/2016.html
http://www.epo.org/about-us/annual-reports-statistics/annual-report.html


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