徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2016年06月

1.欧州特許
UKのEU離脱による影響はありません。欧州特許条約(EPC)はEUの法律ではなく、欧州特許庁もEUの機関ではないからです。このため、UKのEU離脱後も欧州特許庁を介してUK内の保護を取得することができますし、保有している欧州特許のUK内の効力はそのまま継続します。

2.EU(共同体)商標、共同体意匠
両者ともEU加盟国のみに適用される制度ですので、UKのEU離脱後は、欧州連合知的財産庁(EUIPO)ルートでUKでの保護を取得できなくなります。一方、既存の共同体商標権および共同体意匠権については、UKのEU離脱とともにUK内での効力が失われることが想定されていますが、規則は加盟国がEUから離脱することを想定していなかったためどのように取り扱われることになるかは未知です。

3.欧州共同体品種
これもEU商標等と同様、EU加盟国のみに適用される制度ですので、UKのEU離脱後は、欧州共同体植物品種庁(CPVO)ルートでUKでの保護を取得できなくなります。またEU商標等と同様、規則が加盟国がEUから離脱することを想定していなかったため、UKのEU離脱後、既存の権利がどのように取り扱われることになるかは未知です。

4.欧州単一特許制度
こちらの記事をご参照下さい。

今まで各国内での侵害訴訟および取消手続きが必要であった欧州特許に対して、EU内で一括して権利行使等を可能とさせる欧州単一特許制度は、最近では2017年には発効と言われていました。先日の国民投票でほぼ確実となったUKのEU離脱がこの欧州単一特許制度にどのような影響を与えるかを主に法律面から検討してみました。

1.UKは欧州単一特許制度に参加可能なの?


いいえ。
UPC(欧州統一特許裁判所)協定はEU国間の協定であることから(UPC協定第1条、第2条)、UKがEUから離脱した場合、UKは欧州単一効特許制度に参加できなくなります。


2.欧州単一特許制度の発効にはUKの批准が必要じゃなかったっけ?

いいえ。欧州単一特許制度の発行にはUKの批准が必須ではありません。
UPC協定第89条では、欧州単一特許制度は、欧州特許の保有数の最も多い3国を含む13ヵ国の批准から4月目の最初の日に発効すると規定されています。UKがEUを離脱した場合、UKの地位をイタリアが引き継ぐことになります。このためドイツ、フランス、イタリアを含む13ヵ国の批准によって制度の発効が可能になります。


3.ロンドンに設置されるはずだった欧州統一特許裁判所の中央部はどうなるの?

なんとも言えません。
UPC協定第7条(2)では欧州統一特許裁判所の中央部はパリ、ロンドンおよびミュンヘンに設置される旨が規定されています。このため協定が改正されない限り、欧州統一特許裁判所の中央部の一部はロンドンに設置されることになります。

しかしUKがEUから離脱し、UKが欧州単一特許制度に参加できなくなることがほぼ確実になった今、UPC協定第7条が死守され、欧州統一特許裁判所の中央部がロンドンに設置されるということは考えにくいと思う人が多数派のようです。

このため現実的にはUPC協定が再度見直されることが想定されます。


4.制度の発効時期に影響は与えるの?

なんともいえません。発効時期については、以下の3つのシナリオが考えられます。

シナリオ①(予想発効時期:2017年)
UPC協定の見直しはなされない。UKのEU離脱の正式手続が終わる前にドイツ、イギリス、フランスを含む13カ国がUPC協定に批准し、とりあえず制度を発効させる。その後UKがEUを正式離脱・UPC協定を破棄する。
このシナリオだと予定通り2017年ごろには制度の発効が可能です。

シナリオ②(予想発効時期:2019年~?)
UPC協定の見直しはなされない。UKのEU離脱の正式手続の完了後、ドイツ、イタリア、フランスを含む13カ国がUPC協定に批准し、制度を発効させる。
このシナリオだと、最低でも2年の遅れが予想され、制度の発効は2019年以降になると思われます。

シナリオ③(予想発効時期:2020年~?)
UPC協定の見直しがなされ、再度各国の批准手続きがゼロから行われる。
このシナリオだと、遅れは未知数です。もともと2014年に予定されていた制度の発効が2017年までずれ込むことが想定されていたことを鑑みると、遅れは最低でも3年以上になると考えられます。


5.ちなみに今後も欧州特許庁ルートでUKの特許権取得はできるんだよね?


はい、EPC(欧州特許条約)はEUの法律ではないため、UKがEUから離脱した後であってもEPCの加盟国で有り続けられます。したがってUKがEUから離脱した後であっても、EPCを破棄しない限り欧州特許庁ルートでUKの特許権取得は可能です。欧州特許庁の長官もこの点を強調しています


参考条文:
UPC協定第1条
A Unified Patent Court for the settlement of disputes relating to European patents and European patents with unitary effect is hereby established. The Unified Patent Court shall be a court common to the Contracting Member States and thus subject to the same obligations under Union law as any national court of the Contracting Member States.

UPC協定第2条
Definitions For the purposes of this Agreement:
(a) "Court" means the Unified Patent Court created by this Agreement.
(b) "Member State" means a Member State of the European Union.

UPC協定第7条(2)
The central division shall have its seat in Paris, with sections in London and Munich. The cases before the central division shall be distributed in accordance with Annex II, which shall form an integral part of this Agreement.

UPC協定第89条
This Agreement shall enter into force on 1 January 2014 or on the first day of the fourth month after the deposit of the thirteenth instrument of ratification or accession in accordance with Article 84, including the three Member States in which the highest number of European patents had effect in the year preceding the year in which the signature of the Agreement takes place or on the first day of the fourth month after the date of entry into force of the amendments to Regulation (EU) No 1215/2012 concerning its relationship with this Agreement, whichever is the latest

7月1日から欧州特許庁における異議の運用が変わります

主な変更点は以下の4つです。
 
 1.異議申立に対する権利者の応答期間(原則4月)の延長が原則認められなくなる
 2.権利者の意見書が異議申立人に送付される際、応答期間が設定されなくなる
 3.少なくとも口頭審理の6月前に口頭審理の召喚がなされる
 4.口頭審理の結果が1日以内にRegisterに公開される

このストリームラインにより今まで決定まで19月~27月かかっていた異議の期間が15月程度まで短縮されるこが想定されていいます。

DE Ranking 2015

参考サイト:http://dpma.de/service/veroeffentlichungen/jahresberichte/index.html

日本特許庁が提供するドイツ特許法第9条3の和訳によると、ドイツでは特許権者は、第三者が

「特許の対象である方法によって直接に得られた製品を提供し、市販し若しくは使用し、又は当該目的のために輸入し若しくは所持すること」

を禁止することができます。

ここで「方法によって直接に得られた製品」とは、何を意味するのかといった疑問が生じます。

日本の知財実務家であれば「方法によって直接に得られた製品」には物を生産する方法によって生産された物が確実に含まれることは直感的に理解できますが、「方法によって直接に得られた製品」という記載からは例えば検査方法などの物を生産しない方法を経た製品も含まれるという解釈もあり得るからです。

しかし後者(例えば検査方法によって検査された製品)は、「方法によって直接に得られた製品」には含まれせん。すなわち「方法によって直接に得られた製品」とは物を生産する方法によって生産された物を意味します。

ちなみにドイツ特許法第9条の原文では、「直接に得られた(unmittelbar erhalten)」ではなく「直接製造された(unmittelbar hergestellt)」といった表現が用いられていることから、ドイツ法第9条3の和訳としては

「特許の対象である方法によって直接製造された製品を提供し、市販し若しくは使用し、又は当該目的のために輸入し若しくは所持すること」

がより適切と言えます。


参考文献:Schulte

参考条文:ドイツ特許法第9条 原文

Das Patent hat die Wirkung, dass allein der Patentinhaber befugt ist, die patentierte Erfindung im Rahmen des geltenden Rechts zu benutzen. Jedem Dritten ist es verboten, ohne seine Zustimmung
1. ein Erzeugnis, das Gegenstand des Patents ist, herzustellen, anzubieten, in Verkehr zu bringen oder zu gebrauchen oder zu den genannten Zwecken entweder einzuführen oder zu besitzen;
2. ein Verfahren, das Gegenstand des Patents ist, anzuwenden oder, wenn der Dritte weiß oder es auf Grund der Umstände offensichtlich ist, daß die Anwendung des Verfahrens ohne Zustimmung des Patentinhabers verboten ist, zur Anwendung im Geltungsbereich dieses Gesetzes anzubieten;
3. das durch ein Verfahren, das Gegenstand des Patents ist, unmittelbar hergestellte Erzeugnis anzubieten, in Verkehr zu bringen oder zu gebrauchen oder zu den genannten Zwecken entweder einzuführen oder zu besitzen.

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