徒然なるままに欧州・ドイツ特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州・ドイツ特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

2013年08月

PCTルートで欧州特許庁に移行した場合、方式審査後、欧州補充調査報告前にEPC規則161条/162条の通知がなされ、補正をする機会が与えられます。

実は、このEPC規則161条/162条の通知を受ける権利というものは、任意で放棄することができます。これにより審査期間の短縮を図ることができます。

権利放棄のメリット:

欧州特許庁に移行後、方式審査と欧州補充調査報告との間の期間を短縮できます。

EPC規則161条/162条の通知がなされると、通知から6ヶ月以内に補正をする機会が与えられます。この6ヶ月という期間が実は厄介で、欧州補充調査は必ずこの6ヶ月の期間の経過を待って 開始されます。したがって仮に通知後1ヶ月後に補正を提出したとしても、移行時に早期審査(PACE、PPH)を申請していたとしても、欧州調査が開始さ れるのはEPC規則161条/162条の通知の6ヶ月の期間の経過後になります(http://archive.epo.org/epo/pubs/oj011/05_11/05_3541.pdf)。

このためEPC規則161条/162条の通知を受ける権利を放棄することで、欧州補充調査報告を受けるまでの期間を少なくとも6ヶ月短縮することができます。

また、上述のようにEPC規則161条/162条の通知の6ヶ月の期間は早期審査を申請した場合であっても順守されるので、早期審査を申請してもEPC規則161条/162条の通知を受ける権利を放棄しなければ、実質的に欧州補充調査を促進させる効果はありません。


権利放棄のデメリット:

欧州移行後、欧州補充調査開始前の補正の機会が失われます。

欧州では移行時に補正クレームの提出が認められるので、欧州補充調査開始前に補正をしたい場合は、移行時に補正クレームを提出するなど、前倒しの対応が必要になります。


権利放棄の手続き:

欧州移行時に提出するForm for entry into the European phase (EPO Form 1200)のボックス6.4にチェックを入れるだけです。庁費用はかかりません。


欧州特許庁では、進歩性の認定は厳格にプロブレムソルーションアプローチに基づいてなされます。このプロブレムソルーションアプローチは、請求項に記載されていない発明の課題や効果がかなり重視されるという点で、日本の進歩性の主張の実務とは少し異なります。しかしプロブレムソルーションアプローチには、明確な型があり、慣れてしまえば困難ではありません。

また欧州代理人に向けた指示書でプロブレムソルーションアプローチに基づいて進歩性を主張できれば、欧州代理人が確認、修正および加筆すべき事項を少なくすることができ、結果として欧州代理人の費用削減が期待できます。

以下、プロブレムソルーションアプローチに基づいた進歩性主張の雛形の例に基づいて、欧州特許庁における進歩性主張のステップ(1)~(6)について説明します。


(1)主文献の説明
Document D1, which is considered as the closest prior art, discloses a method for preparing a lyophilized hepatitis B (HB) vaccine formulation, the method comprising adding a HBs antigen-adsorbed aluminum gel (aluminum hydroxide or aluminum phosphate) and a stabilizer (e.g. glucose, lactose or mannitol representing a glass-forming agent) in a phosphate buffer to create a liquid vaccine solution and lyophilizing the mixture.

まず、主文献の説明をします。最近の欧州特許庁によるオフィスアクションでは、ほとんどの場合どの文献が主文献であるか明示されています。


(2)主文献との差異の説明

The method of present claim 1 differs from the method of document D1 in the use of succinate buffer and in the use of trehalose as glass-forming agent. By adding succinate buffer and trehalose to the liquid vaccine formulation, a crystallization, which causes a loss of stability of a lyophilized vaccine, can be prevented (page 19, line 18, and page 23, lines 7 to 15 of the specification).

次に主文献と本発明との差異を説明します。そして当該差異によって得られる効果を説明します。ここで実施例などを参照して、当該差異によって得られる効果の立証をするとより有効です。


(3)課題の再構築
Starting from document D1, therefore, the technical problem underlying the present invention is the provision of a method for producing a lyophilized vaccine with low crystallization.
This problem is solved according to the composition of new claim 1.

次に上述した効果を元に本発明の課題を再構築します。再構築された当該課題は明細書中の「発明が解決しようとする課題」の記載と対応する必要はありません。 そして、当該課題が請求項1の発明によって解決されることを述べます。


(4)主文献に基づいた進歩性の主張

Document D1 does not suggest adding succinate buffer and trehalose to the liquid vaccine formulation, since document D1 is silent on the trehalose as a stabilizer. Document D1 discloses a list of suitable saccharides as stabilizer (page 9), which, however, does not include trehalose. Moreover, the document D1 teaches the addition of buffer system in the liquid vaccine formulation, but the succinate buffer is not included in the examples of the buffer system.

次に当業者が主文献に基づいても本願発明に想到できなかった理由について説明します。またプロブレムソルーションアプローチは請求項の構成要件と請求項には記載されていない課題との両者を重視するので、構成要件だけでなく、課題も主文献に示唆されていないことを主張できれば進歩性が認められる確率がより高くなります。


(5)主文献以外の文献についての言及

Documents D3, D6 and D7 do not add to the present invention either.

Document D7 suggests that the addition of the trehalose prevents aggregation, but document D7 neither addresses the problem regarding the crystallization of a lyophilized vaccine nor discloses succinate as a buffer system.

Document D6, which refers to a liquid vaccine and not to a lyophilized vaccine, neither suggest the addition of succinate buffer and trehalose nor the problem regarding the crystallization of a lyophilized vaccine.

Document D3 teaches that the succinate rather stimulates the crystallization (page 197, right column). Thus, document D3 rather teaches away from the addition of the succinate to prevent the crystallization.

当業者が主文献と主文献以外の文献とを組み合わせないこと、または仮に組み合わせても当該発明に到達しない旨を主張します。主文献のときと同様、請求項の構成要件だけでなく課題面からもアプローチを試みます。


(6)結論
Consequently, combining succinate buffer and trehalose to the liquid vaccine formulation to prevent the crystallization has neither been suggested by the prior art documents nor by the knowledge of a person skilled in the art.

最近日本人の知財関係者から欧州での就職活動についてアドバイスを求められることが増えてきました。特に「どのようにして欧州の特許事務所の求人を見つけたらよいのか」という質問をよく受けます。

確かにパテントサロン等でも欧州の特許事務所の求人情報をチラホラと見かけますが、その数は消して多くありません。また、あえて日本人に対する求人情報をHPで公開している事務所はほぼありません。

それではどうすればよいのでしょうか。

例えば私の場合、日本企業を多くクライアントとして抱える特許事務所に片っ端から履歴書を同封してコンタクトをとってみました。私は、就職先をドイツに決めていたので、コンタクトを取る事務所のスクリーニングには日本企業向けにドイツの特許事務所を紹介した当該ホームページを参照しました。コンタクトを取った事務所の8割からは無視または体よくあしらわれましたが2割の事務所からは興味を示してもらえました。当時これらの事務所が日本人の求人広告を出 していなかったことを考慮すると2割という数字はかなり良い確率だと思います。

または、現在勤めている日本の特許事務所によく訪問してくる欧州代理人に内密に「貴所で働かせてくれないか」とダイレクトに聞いてみるのもよいかもしれません。日本によく出張する欧州代理人は日本企業を多くクライアントとして抱えているはずなので、日本人知財関係者の潜在的需要もあるはずです。

いずれにせよ待ちのスタンスだけでは欧州で希望に適った職場を見つけるのは困難だと思います。攻めのスタンスで行動あるのみです。

現在日本から欧州への出願は増加傾向(過去の記事を参照下さい)にあります。同時に日本人クライアントとのコミュニケーションとの困難さに頭を抱えている事務所も少なくありません。したがって、日本人クライアントとの円滑なコミュニケーションを図るために日本人弁理士または知財経験者を潜在的に欲している事務所は多くあると思います。欧州で働く日本の知財関係者は近年増えてきたとはいえまだアメリカほどの飽和状態にあるとも言えません。欧州知財市場は、日本人にとって魅力的な活躍の場のうちの1つであると思います。

欧州特許庁において審査の促進を図るための手段として特許審査ハイウェイ(PPH)申請があります。欧州特許庁におけるPPHが具体的にどの程度の効果があるのかを知るため、欧州特許庁におけるPPHの各種データについて調べてみました。


・一発査定の確率:7%

特許性を否定しないファーストオフィスアクションが出る確率を意味します。日本でPPH申請をした場合の一発査定率が28%であることを考慮すると、欧州特許庁の7%はかなり低い数値であると言えます。


・新規文献が引用される確率:65%

つまり仮に日本特許庁がX文献、Y文献を発見しなかった場合でも、欧州特許庁は独自の調査によって6割以上の確率で、新たなX文献またはYを引用してくる ことを意味します。これは欧州特許庁はPPH案件であっても通常の調査を行うことを意味します。なお、PPHを申請しなかった場合(つまり通常のEuro-PCT出願)における当該確立は74%です。


・ファーストオフィスアクションまでの平均日数:156日

日本の約70日(2.3ヶ月)と比較して倍以上の日数を要しているようです。また、PPHとは別の審査促進手段であるPACE申請をした場合は当該日数は、188日です。


こ のように日本特許庁におけるPPHと比較した場合、欧州特許庁におけるPPHではファーストオフィスアクションまでの日数は倍以上で、しかも一発査定率は 日本の1/4です。したがいまして、日本のPPHと同様の効果が得られることを期待して欧州特許庁でPPH申請した場合は、大いに失望することになります。


参考サイト:

http://www.wipo.int/meetings/en/doc_details.jsp?doc_id=197677

http://www.jpo.go.jp/ppph-portal/statistics.htm

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