徒然なるままに欧州・ドイツ特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州・ドイツ特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

欧州主要国における特許侵害行為に対する損害賠償請求権の消滅時効は以下の通りです。
Limitation period
*)フランスに関する情報はBandpay & Greuterの武内先生からご提供頂きました。



欧州では1つのカテゴリ(物、方法および使用)に2以上の独立クレームを含めることは原則禁止されています。この1カテゴリー1独立クレームの原則を規定するのが以下のEPC規則43条(2)です。

EPC規則 43条(2)          
第82条を損なうことなく、欧州特許出願は、同一カテゴリー(製品、方法、装置又は用途)に属する2以上の独立クレームを含むことができるが、出願の主題が次の項目の1に係わっている場合に限る。
(a) 相互に関連する複数の製品
(b) 製品又は装置の異なる用途
(c) 特定の問題についての代替的解決法。ただし、これらの代替的解決法を単一のクレームに包含させることが適切でない場合に限る。

このようにEPC規則43条(2)は上記(a)、(b)および(c)の場合、例外的に1つのカテゴリーに2以上の独立クレームを含めることが許されることを規定しています。そして欧州特許庁のガイドラインが上記(a)、(b)および(c)の要件を満たす具体例を開示しています(GL F‑IV, 3.2)。

欧州特許庁のガイドラインに開示された具体例は以下の通りです。

 ・EPC規則43条(2)(a)型
 ‐ プラグとソケット
 ‐ 受信機と送信機
 ‐ 化合物の中間体と最終化合物
 ‐ 遺伝子と遺伝子構築物とホストとタンパク質と薬剤
 
・EPC規則43条(2)(b)型
  ‐ 化合物の複数の用途

・EPC規則43条(2)(c)型
 ‐ 同一グループに属する複数の化合物
 ‐ そのような化合物を製造する複数の方法

・その他
 ‐ 回路とその回路を有する装置
 ‐ データ処理方法、そのデータ処理方法を行う手段を有する装置、そのデータ処理方法のプログラムが格納された情報媒体




ドイツ特許庁が単一性を指摘してくることはどちらかと言うと稀です。ドイツ特許庁の審査基準では単一性がないことが明らかな場合であっても課題の共通性がある場合などは単一性の指摘を避けるべき旨が規定されています(Richtlinien für die Prüfung von Patentanmeldungen 1.7)。このため普段の実務でドイツ特許庁からの単一性の指摘に触れることはあまりありません。

しかし一旦ドイツ特許庁から単一性を指摘するOAが発行された場合は注意が必要です。なぜなら単一性の指摘を解消する手段が限られているからです。

より具体的にはドイツ特許庁からのOAで単一性が指摘された場合、それを解消する手段は原則以下の2つしかありません(Richtlinien für die Prüfung von Patentanmeldungen 2.3.3.4)。

 1.単一性がない部分を放棄する
 2.単一性がない部分を分離(Ausscheidung)する

ここで「分離(Ausscheidung)」とは単一性を指摘するOAで指定された期間内に義務的に行う分割を意味し、出願係属時にいつでも行うことができる自発的分割(Teilung)とは別の名称が用いられています。

つまり欧州特許庁のように補正によって単一性を確保したり、意見書によって単一性があることを主張したりすることで単一性の指摘を解消することはできません(過去の記事「部分ESRの対応とその後のシナリオ」を参照)。

さらに注意すべきはOAで指定された期間内にその単一性がない部分を分離(Ausscheidung)しなかった場合、その部分を放棄したとみなされ以後の手続きでその部分を復活させることができません。自発的分割(Teilung)の対象とすることもできません。つまり分離(Ausscheidung)しなかった部分の権利化は不可能となります。

従って、単一性が無い部分の権利化を希望する可能性がある場合は、OAで指定された期間内にその部分を分離(Ausscheidung)しておくことをお勧めします。


PCT出願の和文明細書を作成する際にはWIPO指定の共通出願様式により通常段落番号を付します。しかしPCT出願の各国移行の際に必要になる翻訳文(英文)ではこの段落番号を付す必要がありません。このため各国移行時には段落番号が付されていない翻訳文が提出されることがあります。

しかし以下の2つの理由からPCT出願の英文明細書にも段落番号を付すことをお勧めします。


1.記載箇所を特定しやすい

英文明細書にも段落番号が付されていると、和文明細書の記載箇所と英文明細書の記載箇所とを対応させることが容易です。

このため例えば現地代理人にクレーム補正の根拠を説明しなければならない場合、英文明細書にも段落番号が付されていると、和文明細書において補正の根拠となる記載箇所に対応する英文明細書の記載箇所をすぐに特定することができます。また現地代理人に対しては「クレーム補正の根拠は明細書段落[00XX]である」とだけ説明すれば十分な場合がほとんどになるので指示書の作成も楽です。

一方で英文明細書に段落番号が付されていない場合は、和文明細書において補正の根拠となる記載箇所に対応する英文明細書の記載箇所を特定するのに手間がかかります。さらに現地代理人に対する補正の根拠を説明では「クレーム補正の根拠は明細書XXページ、XX~XX行である」とページだけでなく行も特定しなければならないので指示書作成の労力も増えます。
 

2.各国移行時に事故が起こりにくい

ほとんどの現地代理人は和文PCT出願書面を読むことはできません。このため日本から国内移行の指示と共に送られてきた英文書面が本当に和文PCT出願書面と対応しているかを確かめる術がありません。

したがって仮に誤って別案件の英文書面を送ってしまった場合には、そのままその誤った英文書面が国内移行時に提出されてしまい気づいた時には時すでに遅しということがあります。

一方で英文明細書に段落番号が付されている場合は、現地代理人は少なくとも和文明細書の段落番号と英文書面の段落番号とが一致しているかをチェックすることができます。そしてその段落番号が一致していない場合は和文PCT出願書面と送られてきた英文書面とが対応していない可能性に気づくことが出来ます。

したがって仮に誤って別案件の英文書面を送ってしまった場合であっても移行手続前にその誤りを修正できるチャンスが増えます。


まとめ

上述のように英文明細書にも段落番号を付すことで中間対応時の手間だけでなく事故のリスクも減らせます。したがってPCT出願書面の英訳を作成する際には英文明細書に段落番号を付すことをお勧めします。


昨年に引き続き今年も日本知的財産協会主催の2019年度の研修「欧州特許制度」の一部で私長谷川が講師を務めさせて頂くことになりました。

研修の日程は以下の通りです。

関東:
 1日目: 6月19日(水)
 2日目: 7月10日(水)
 3日目: 7月31日(水)
 4日目: 9月4日(水)

関西:
 1日目: 6月18日(火)
 2日目: 7月17日(水)
 3日目: 8月7日(水)
 4日目: 9月13日(金)

より詳細な情報は日本知的財産協会のホームページをご参照ください。

受講者の皆様にとって有意義な情報および時間を提供できるよう努めます。欧州における権利化業務にご興味のある方は是非ともご参加下さい。


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