徒然なるままに欧州特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州における特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

日本の弁理士は登録後に様々な継続研修を定期的に受講をすることが義務付けられています。この継続研修の多くはEラーニングで受講することができるため場所および時間に縛られることなく研修に参加することができます。

しかし5年に1度だけ倫理集合研修というものに参加することが義務付けられています。この倫理集合研修だけはEラーニングで受講することができず、実際に東京、名古屋、京都または大阪の会場まで赴かなければなりません。当然ながら海外在住の日本弁理士にとっては参加のハードルが高いです。

この倫理集合研修に参加するためにスケジュールの調整に苦労しているという話を海外在住の日本弁理士から聞くことがあるのですが、実は海外在住の日本弁理士は継続研修実施細則第3条第2項の規定によりこの倫理集合研修を実際の参加に代えてDVDで受講することができます。

倫理集合研修のDVD受講による単位取得までの手続きは以下の通りです。

1.DVD受講希望の理由説明書を弁理士会に送付
2.弁理士会から送付される事例集の受理
3.事例集の回答を弁理士会へ送付
4.弁理士会から送付されるDVDの受理
5.DVD受講のレポートを弁理士会へ送付
6.単位取得

私自身、実はこれまで帰国のタイミングが合わず一度も倫理集合研修に参加したことはありません。これまであった2回の倫理集合研修は全てDVDで受講しました。

DVDを見る限りではかなり興味深いトピックについて様々な視点からディスカッションされている様子が窺い知れてとても面白そうに思えます。いつか帰国のタイミングがあえば是非とも倫理集合研修に参加してみたいです。





欧州の主要国における職務発明制度を発明の帰属および対価の要否の観点からまとめてみました。
Employee Invention
参考サイト:


この度、弁理士春秋会主催の研修で私長谷川が講師を務めさせて頂くことになりました。 研修の概要は以下の通りです。

 テーマ: 「EPOにおける情報提供および異議申立」
  日時: 令和元年10月11日(金曜日)18:30~20:30
  会場: 日本弁理士会 3階-DE会議室

受講者の皆様にとって有意義な情報および時間を提供できるよう努めます。





背景:

ドイツ連邦特許裁判所(Bundespatentgericht)は日本の無効審判に対応する無効訴訟(Nichtigkeitsklage)を管轄する裁判所です。この無効訴訟にはドイツ特許庁の審査を経たドイツ国内特許に対する無効訴訟と、欧州特許庁の審査を経た欧州特許のドイツ部分に対する無効訴訟とがあります。このたびドイツ連邦特許裁判所におけるドイツ国内特許の無効率と、欧州特許のドイツ部分の無効率とに差があるのではないかと思い調べてみました。


調査方法:

ドイツ連邦特許裁判所のデータベースに公開されている2018年の無効訴訟の判決73件を、対象がドイツ国内特許であるもの(6件)と、欧州特許のドイツ部分であるもの(67件)に分けそれぞれ特許維持判決(valid)、無効判決(invalid)そして一部無効判決(partly invalid)の比率を調べました。


結果:

1.ドイツ国内特許に対する無効訴訟の判決の比率
Nullity DE
2.欧州特許のドイツ部分に対する無効訴訟の判決の比率
Nullity EP

考察:

ドイツ国内特許に対する無効訴訟の判決のサンプル数が6件と少なかったため正確な比較はできませんが、上記結果はドイツにおいてはドイツ国内特許の安定性(特許維持判決の比率=50%)のほうが、欧州特許のドイツ部分の安定性(特許維持判決の比率=13%)よりも遥かに高いことは示唆します。





欧州特許庁において自らの名前をバラさずに異議を申し立てたい場合には、代理人名義で異議を申し立てたり、Strawman Limitedのような名義貸しサービス会社を利用して異議を申し立てることがあります。

このようにダミーで異議を申し立てた場合、自らの名前が公開されないというメリットがありますが、多くのデメリットもあります。

以下に、ダミーで異議申立てをすることのデメリットを説明します。


1.実験データの信憑性を疑われる

欧州特許庁における異議では、実験データを提出して特許性を攻撃することがあります。そして一般企業が異議申立人である場合は、具体的な証拠または根拠なしにこの実験データの信憑性が疑われることはありません。

しかし異議申立人がダミーの場合、異議部が「そんな何処の誰がやったかわからないような実験データは信憑性がないので考慮しませんよ」と言っていることがあります。

欧州における異議では「疑わしきは特許権者の利益に」(Benefit of Doubt)という原則があるため(GL D-V, 2.2)、特許性を攻撃する実験データの信憑性が無いと判断されてしまうと上記原則に基づいて特許性が有ると判断されてしまいます。

このように提出した実験データの信憑性が異議部に疑われるとは異議申立人にとってはかなり痛いです。


2.口頭審理に参加することを躊躇してしまう

異議における口頭審理に参加すると急遽提出が必要になった補正案の適否を判断できたり、ディープな技術的議論を当業者の立場からサポートできたりするといったメリットがあります。

しかし口頭審理に参加した者の名前は口頭審理の議事録に残ります。このためダミーで異議を申し立てた場合に口頭審理に参加してしまうと折角苦労して自社の名前を伏せたにも関わらず自社の名前がバレてしまうというリスクがあります。

この理由からダミーで異議申し立てをした際には口頭審理に参加することを躊躇しがちになります。


3.和解が成立しにくい

以前の記事「EPOおける異議で特許権者から和解を提案する好ましいタイミング」でも説明したように欧州では異議申立後に特許権者から異議申立人に異議の取下げを条件に和解を提案することがあります。

しかしダミーで異議が申し立てられた場合、特許権者は本当の異議申立人を知ることが出来ないため和解を提案しても良い相手か否かを判断することはできません。このためダミーで異議を申し立てた場合は和解という選択肢が実質的に無くなります。


4.なんとなく異議部が冷たい

これは完全な私の主観的な感想なのですが、これまでの経験から欧州特許庁の異議部はなんとなくダミーの異議申立人に冷たい気がします。ダミーで異議を申し立てること自体、異議部の心証形成には不利に作用するのかもしれません。


5.バレる場合も多い

仮にダミーで異議が申し立てられた場合であっても、異議申立ての際に提出される文献または証拠などに基づき誰が本当の異議申立人であるかのを推測できてしまうことがあります。このため自社の名前をバラさずに異議申立てをすることができるというダミーでの異議申立てのメリットも実はそれほど確実なものではありません。


まとめ

上述のように欧州においてダミーで異議を申し立てることには、メリットが不確実な割には種々のデメリットが存在します。このため欧州では安易にダミーで異議を申し立てるのではなく、ダミーで異議を申し立てるか否かの判断は、メリットおよびデメリットを比較した上で慎重に下すことをお勧めします。


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